夢博士の独白



揺れる城門と苦悩する私、形而上的不安へと帰還する精神、水面で花開く少女の眼差し

 閉ざされた「扉」と向き合うことは、決して不愉快なことではない。問題は、そのように見える「心理」のように思われたのです。「水面」が近付く。穏やかな「波紋」が拡がり、静かに消えていく。揺れる「扉」の向こう側に誰かが立っている。それは、過去の私、もう一人の「私」かもしれない。私の「心」が閉ざされていたのです。
 トランプを切る素早い「手」の動き、その瞬間々々に見え隠れする暗示的な「情景」、それらが目の奥で積み重なっていく。「扉」が、それらを閉じ込めていたのです。
 私は思考する。私は逡巡する。私はどこから来て、どこへ行こうとしているのかの「苦悩」が始まる。その「苦悩」は、秋のように深まるが、やがて泡のように消えていく。
 暫くすると、巨大化する「扉」が、鏡のように過去と未来を遮断する「城門」となって、立ち現われてきたのです。「城門」で隔てられ、その「城壁」の内部と外部で対峙する、ちっぽけな二人の「私」が視える。可能性としての二つの「現実」が視える。私の「意識」は気流となって上昇して、その「光景」を俯瞰していたのです。高揚する「精神」が、それを目撃したのです。
 右手の平で「城壁」をなぞる。左手の平で確かめる。その冷たい凝固した「意志」のような固さに驚かされる。私は「城壁」に沿って右周りに歩き始めました。「時計」が刻々と右回りに時を刻んでいる。「時間」に逆行することは許されなかったのです。
 「城壁」の所々が欠落していました。その「穴」が内部を暴露していたのです。私は「私」の「内面」を覗く。執拗に覗き込む。すると「記憶」としてのキリコの「絵画」が、その形而上的な「不安」が観えたのです。「精神」は望郷の念に駆られたのです。
 運動場のような「平地」が視えて、たくさんの黒い影のような「穴」が空いている。軌道から外された「貨車」が並んでいる。その背後では、「夜」を待つ「野犬」が群れている。一匹の黒い「狂犬」の白い「歯」が光る。建物の屋上には狙撃兵の「銃口」が視えて、テロリストは黒い「眼帯」をしていたのです。それは、私の「記憶」から削除された「顔」に違いない。逃げなければいけない。この「幻影」に囚われてはいけない。
 真っ青の「空」を見上げると、黒い「太陽」が白い「月」に呑み込まれようとしていました。軽く刷毛で掃いたような「薄雲」がゆっくりと流れてくる。二つの「白雲」が唐突に現われ、その「白雲」の合間に視えた飛行機は、次の瞬間には飛行場に着陸していたのです。タラップからは永遠に誰も降りてこない雰囲気だけが漂っていたのです。やがて取り残されたように佇む「私」に、「意識」が舞い降りてきました。「人影」が飛行機の「小窓」から、私を窺っているのが視えたのです。
 私の「視線」が機体の後方に移動するに従って、「小窓」が一直線に並び始めました。次々に「人影」が複製されていく。彼らの「視線」の彼方を振り返ると、茶褐色系の「色彩」の交響の中に、懐かしい人々の「顔」が浮び上がってきたのです。誰彼と特定できない「顔」の集団が、全体を構成していたのです。私の「緊張」は一気に氷解して、黒い影のような「穴」が透明の「水」で満たされていく。「涙」が地中から湧いてくる。それらが「鏡面」となって、刻々と「夜」への変貌を遂げる「空」を映し出したのです。
 無数の「水面」に写っていた白い「月」が、次々に黄金色の「衣」を纏い始めました。新たな「夜」が訪れようとしている。静かな「夜」が忍び込もうとしている。そのとき突然、無数のコバルトブルーの「小鳥」が、いっせいに飛立つ「羽音」が聞こえてきたのです。「水面」が青色系に一変する。黄金色に輝いていた「月」が、灰色がかった青緑色のグラデーションの「色彩」に沈んでいく。それに代わるようにして、「少女」の強い眼差しが浮び上がってきたのです。目の奥から浮び上がってきたのです。
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# by artbears | 2015-01-30 19:30 | 連白

暗黒の世界の深遠なる闇、純白の貝殻の純粋なる美、神への愛又は苦悩する二人の精神

 それは、太陽の放った「光線」に違いなかったのです。熱く「水中」を貫いている。硬く透き通って、強く自信に満ちている。その周辺では「光」の粒子が渦巻いていて、それは、脱ぎ捨てられた淡い金色のドレスが舞っているように視えたのです。「水」が沸騰して、「光」が燦爛している。あの「月光」のようなどっち付かずの素振りは見せずに、それは、一直線に「水底」を目指していたのです。
 ときおり「風」が吹くようにして、「小魚」の群れがどこからか現れて、何かの「出現」に怯えるようにして、深淵なる「暗闇」に吸い込まれていく。死の淵で開かれた大蛇の「口」、その暗黒の「世界」のような「穴」に呑み込まれていく。
 そのとき一瞬、あの「犯人」の薄い「唇」が震えて見えたのです。灼熱の砂漠の「太陽」が眩しい。「銃口」が無差別に向けられている。兵士と情報が次々と「国境」を突破している。焦点の定まらないシャークの「目」が左右に振れて、卑猥で官能的な「頭部」が迫ってくる。とにかく、離れなければいけない。この黒い巨大な「穴」に呑み込まれてはいけない。
 グローバルに拡大した「世界」が再び縮小に転じているのです。まるでバクテリアの増殖と死滅の「過程」が繰り返されているようだ。主権国家の枠組への「認識」が曖昧になっている。否、枠組自体の「存在」が否定されようとしている。パンデミックの「恐怖」、ポストモダンの「矛盾」とプレモダンの「蛮行」が同時に多発している。
 無意識の「目」が薄っすらと開かれました。すると、太陽の「光線」がスポットライトとなって「水底」を照らしていたのです。目の奥で何かが現れようとしている。私は「心底」から、それが、美しく清らかなものであって欲しいと願ったのです。この絶望の「未来」を目前にして、この暗黒の「世界」を背後にして、私は自らの「視線」の欲望を抑えることができなかったのです。
 それは想像上の「産物」ではなく、抑制と禁忌のヴェールから垣間見られる「光景」であるべきでした。豊穣なる「海」が、私を抱擁する。豊潤なる「海」が、私を溶解する。気が付くと、「純粋」なるものが、私の「視線」を支配していたのです。エメラルド色の翡翠で造られた「玉座」が現れる。その上に置かれた美しい純白の「貝殻」が現れる。至福の「光景」が、私の「脳内」に浮かび上がったのです。
 波打ち際の「白浜」、打ち寄せる「白波」の「音」が心地良い。それは地球の「心臓」、その「鼓動」が秩序と調和のリズムを打っている。どうやら、私の「意識」は、この巨大な「巻貝」の洞窟状の「空間」に移動したようです。艶やかに光り輝く「内壁」にそっと触れる。そのピンク色の肉惑的な美しき「器」に魅了される。私の「耳」も鋭敏なる音響の「器」となる。そして「巻貝」となって「音」を求める。遥か遠くから聞こえてくる高貴で優美で軽やかな「音色」が、私の「脳内」で響き渡ったのです。
 それは、グレンの弾くバッハに違いなかったのです。二人の異なった「精神」が時空を超えて出会う。古典の「精神」が現代の「精神」によって解体され解釈される。グレンの呻吟する「声」が聴こえる。悲しく愛おしく美しい「旋律」は、その「背後」にある「苦悩」を浮き彫りにしていく。神への「愛」が、「現在」に蘇ろうとする「苦悩」に置き換わる。その純粋で永遠なる「苦悩」が、繰り返して「再現」されようとしていたのです。「神」が聴こえる。「未来」が見えたのです。
 ゆっくりと「時間」が始まり、そして速まりました。そのテンポに合わせて、この巨大な「巻貝」のような「空間」が右回りに回転を始めたのです。「空間」が捻れる。「肉体」が軋む。ある種の遠心力に促されて、「精神」が「肉体」から遊離する。
 黒いレコード盤が、目の奥で右回りに回転している。「眩暈」のように回転している。黒く刻まれた「溝」が、私の「意識」を深く掘り下げていく。真っ暗な「空間」が続いて、やがて螺旋状の「階段」が見えてくる。「老女」の灯す蝋燭の「炎」が見えてくる。私の「精神」は、「海面」を反対方向から見上げていたのです。向こう側の「世界」で、陽炎のように揺れる「扉」が視える。それは、私を強く「拒絶」するかのように視えたのです。
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# by artbears | 2014-12-30 17:22 | 連白

巨大な白亜の建物又は文明の伝説、黒く塗られた世界の現実、光に充ちた無意識の水底

 この巨大な白亜の「建物」が至るところに建てられて来たという「伝説」が、まことしやかに囁かれていたのです。囁く、いったい誰が誰に、もう一人の「私」は沈黙で答える。私の「脳内」を覗き込むと、鳥たちが慌てふためき飛び回るのが見える。散らばった羽毛を掻き集めると「伝説」という「概念」が残っている。私は独りで、人工的構造物の「屋上」に立っていたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が吹き抜けました。言葉巧みな軽業師、「伝説」の語り部である一羽のカラスがフェンスに留まったのです。一息付いて半開きになった黒い「嘴」、その間から僧衣の裏生地のような赤い「内部」が視える。青紫の混ざった長い艶やかな「黒髪」が風に靡いている。血の滴るような赤紫の「目」が意地悪く覗いている。
 フェンスは、まるで「戦場」に張り廻らされた鉄条網のように双方向性がなく、「屋上」を「外部」から頑なに拒絶していました。コントロールできない「世界」の絶望的な「現実」が、その変わらない「本質」が痛々しく視えたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が通り過ぎました。黒い羽毛が逆立つ。黒一色に身を固めた超合理主義者であるカラスは、冷静に「風」の行方を読み、その「翼」を力強く羽ばたかせて「空中」に舞い上がったのです。
 その「背景」には、孤独に立ち竦む数多くの白亜の「建物」が視えました。それらの内のいくつかは、既に崩壊の「過程」に在りました。乱立して視えた「教会」が傾いている。無音の「鐘」が「文明」の消失を告げている。「自然」と「文明」の荒廃が同時に進行している。無数のカラスの群れが、黒い「斑点」となって拡がり、それらがしだいに「世界」を黒く塗り潰しているように観えたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が吹き付けました。ピンク色に染まった「波紋」が、虚ろに浮かぶ「小舟」を揺らしたのです。水平を保ったプールの「水面」が、徐々に傾く「建物」の異常を報せたのです。この永続的な「不安」が、私の「足場」を崩し始める。この逃げ場のない恐怖の「感情」が、私を「谷底」へと突き落す。私はクルクルと回転する「眩暈」の渦に巻き込まれたのです。
 チクタクと「時計」の針が進む「音」がする。ネットリとした体液のような「感触」が、私の「意識」を呼び覚ます。一昼夜にして海中に姿を消したというアトランティスの「伝説」が、消え去った幻の「文明」が、私の「記憶」の「海」に浮かび上がったのです。もう一人のピーターの「歌声」が、私の「脳内」で響き渡ったのです。「自然」が異議を申し立てる。「市民」は逃げ惑う。「都市」は檻となり、「狂気」が感染する。確かに、人は「水」の下では生きられない。
 黒い「月影」の裏側が揺れて視える。木製の「小舟」の船底が揺れて視える。私は、「水面」を反対方向から見上げているのに気付いたのです。「私」はここにいる。それは、偽りの「感覚」かもしれない。頭上に浮かぶ「小舟」は、あのバーミリオン色をした大蛇の「死体」を運ぶ「器」かもしれない。無意識の「目」が光っている。とにかく、もっと深く潜らなければいけない。
 幾本もの「光」が束になって「水底」を目指して射していました。その周りを、銀色に輝く「小魚」の群れが通り過ぎて行く。それらの「集団」の動きは、まるで気紛れな「風」のようでした。銀色の「光」の塊となって、何かの「形態」を生もうと欲していたのです。
 一つの「集団」が喜怒哀楽の「顔」となって、私に向かってくる。「歓喜」の表情が「激怒」の表情に変化して、私を通り抜けて行く。振り返ると、その「顔」は泣いていたのです。私の白い「肌」には、魚のヌルヌルしたどこかエロティックな「感触」が残っていたのです。
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# by artbears | 2014-11-30 16:13 | 連白

表象としての水面に映る月影、回廊又は壁と水路の関係、視界に現れた裏切られた予感

 バーミリオンの「月影」が氷のようなブルーの「水面」で揺れる。それは、プールの「水面」から僅かに浮かび上がって視えたのです。ペラペラの「月影」が「水面」に貼り付いている。静寂の「歌声」が震えて映る。水の「妖精」がキラキラと舞っている。やがて一つの「月影」が壊れて、一つの「月影」が生まれる。その永遠の繰り返し、その生成流転の「表象」に、私はクラクラと「眩暈」を覚えたのです。
 どうやら、私は幻惑の「回路」に迷い込んでしまったようでした。沈黙の「燭台」が古代ローマの「回廊」に並ぶ。大理石の「円柱」は遠くまで続いているようなのだが、その先には、私の「視界」を遮るようにして、湿り気のある「濃霧」が立ち込めている。あの「月」の妖気を秘めた「光」は、いつの間にか、シャンデリアのクリスタルな「光」に変わっている。「濃霧」のカーテンを恐る恐る開くと、既視感のある驚きの「光景」が、私の「目」に焼付いたのです。
 依然として長い「回廊」は続いていました。右側には石組みの「壁」が、左側には石造りの「水路」が、私に謎解きを求めるように現れて来たのです。この左右のバランスを失った「感覚」、それが「記憶」のどこかの片隅に眠っていたのです。
 依然として暗い「回廊」は続いていました。いかにも堅牢な「壁」が、私の「耳」に触れるのが恐い。その上に彫られた「顔」が、私を誹謗中傷する「言葉」が怖い。「意識」は意味付けを急ぐのだが、「認識」までには至らない。見ていることが、必ずしも見えていることとは限らない。私の「精神」は、あくまでも冷静さを装っていたのです。
 私は「水路」に目を転じました。すると、「世界」は鮮やかに反転したのです。安堵の「感情」が、まるで滾々と湧く「泉」のようにして、私の「内部」に満ち溢れて来たのです。
 鮮烈な赤ではない。淡く優しいピンクの色調のバラの「花弁」が、ゆっくりと回転木馬のリズムに合わせて、まるでワルツを踊るような優雅さで流れて来たのです。うっとりとする甘い夢のような「香気」が漂って来たのです。
 既に先人の残した「足跡」が、私の歩むべき「方向」を示していました。そして、私が一歩一歩と「足跡」を重ねる度に、その「香気」は力強さを増幅する。やがて慣れ親しんだ匂いは未知なる匂いへと変化する。それは、あの森羅万象のエッセンスを凝縮した「美酒」の醸し出す「薫香」のようでもありました。
 花は咲き、やがて枯れゆく収穫を迎える。果実は実り、やがて死にゆく熟成を進める。大地の香りが見える。海の薫りが聞える。その「香気」に魅了され、その「薫香」に酔い痴れた私は、桃源郷が近いことを「予感」したのです。
 私は「水路」に沿って歩みを速めました。「水路」はしだいに「壁」から離別して、私を左方向に誘導している。パラパラと真紅のバラの「花弁」が落ちてくる。見上げると、生い茂るバラの大輪で造られた「門」が、私に覆い被さるようにして視えたのです。
 「時間」が刻々と過ぎている。「世界」は激変を欲望している。何が起こっても不思議ではない。不思議という「言葉」自体の輪郭が消えている。「意味」を失っている。
 私は「門」を潜り抜けたようでした。足元のネットリとした「水」の感触が、そのことを報せてくれたのです。「濃霧」が晴れる。私の「予感」は見事に裏切られる。巨大な白亜の建物の「屋上」のプールが、私の「視界」に再び現れたのです。
 プールの「水面」では、あの「月影」も「波紋」も消えて無くなっている。そして、悲しみの「旋律」が静かに響いている。苦しみの「小舟」が厳かに浮かんでいる。それは、誰かの脱ぎ捨てた「衣服」、何かの「死体」のようにも視えたのです。三匹のバーミリオン色をした「大蛇」が横たわる。その息絶えた「姿」が目の奥に現れたのです。
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# by artbears | 2014-10-31 19:50 | 連白

決壊する狂気又は洪水への恐怖、翡翠の玉座の上の純白の花束、脳内に浮かぶ二つの月

 様々な「色彩」が、私の周りをクルクルと旋回し始めたのです。それらの「色彩」が、私を取り囲む。見覚えのある「顔」となって、私を吟味する。見覚えのない「顔」となって、私を威嚇する。あの「階段」で擦れ違った「恐怖」に慄く人々の「顔」が、私の周囲を走馬灯となって回転し始めたのです。私の「意識」の前を通り過ぎたのです。
 「意識」についての「認識」が浮かび上がってくる。私はクラクラと「眩暈」を覚える。その「入口」を入ると、空っぽの白濁した「空間」がある。そこには「壁」がない。「私」もいない。曖昧な周辺部と明確な中心部からなる、まるで「概念」のような抽象的な「空間」が浮かんでいる。私自身を忘れられない「苦悩」だけが漂っている。
 「狂気」が「扉」の向こうでザワザワと騒がしい。指揮官が不在の統率の執れない「軍隊」が招集されている。「扉」は開放されるか、破壊されるかのどちらかの「運命」にある。黒いトンネルのような「鍵穴」は視えているのだが、鉄製の錆び付いた旧来の「鍵」が時代遅れであることは間違いない。「洪水」が決壊を招く前に逃げなければいけない。「歴史」が終わったとしても、この迫りくる「狂気」は決して逆流はしない。
 「座席」には、確かに白いエンベロープが置かれていました。それは、私の「記憶」のなかで咲いているホワイトリリー、エメラルド色に光る翡翠で造られた「玉座」には、美しい純白の「花束」が置かれていたのです。何という清らかな「芳香」、何という安らぎの「旋律」、私の「身体」の至るところから吹き込んでくる、その「微風」のような心地良さに満たされた私は、束の間の忘我の「時間」を過ごしたのです。
 気が付くと、「危機」はどこかに行ってしまっていました。その代償として、あの純白の「花束」もどこかに消えてしまったのです。失われた「時間」の不可逆性への「感情」が、私の「内部」で増水する。その喪失の「感情」に、私は溺れたのです。
 手掛かりは「少女」の面影を追うことでした。前方にある大画面の「映像」には、すでに変化の兆しが現れていたのです。「地平」も定かでない焼野原では、太陽の「光」が気紛れなスポットライトのように射して、名もなき「雑草」を照らし出していました。「草花」が優美に揺れ動き、小さな森の「妖精」が軽やかに乱舞する。彼らの弱々しい「光」に導かれて、私が「森林」に再び辿り着いた頃合いには、「夜」の帳が降りていたのです。
 薄墨のような「空間」が独りで「呼吸」をしている。静かに息を凝らしてベンチに「手」を触れると、そこには、「少女」の温もりが「足跡」のように残されていたのです。思わず、ポッカリと空いた「夜空」を見上げる。すると、狂ったように輝く「月」に見下される。深い井戸から目撃したような「光景」に、私は狼狽してしまったのです。
 「月」の放った「矢」に、私の「目」は射抜かれたのです。稲妻が「脳内」を走り、昇龍が「天界」を駆け上がる。閉じた「目」を開くと、煌々と輝く二つの「月」が視えました。開いた「目」を再び閉じると、一つの「月」が残されていたのです。その「脳内」に現れた唯一無二の「月」の美しさに、私の「心」は奪われたのです。
 プールの「水面」では、その「月」のバーミリオン色の「影」が浮かんでいました。それは、あの巨大な白亜の建物の「屋上」での出来事でした。もう一人の「私」には、あの「階段」を駆け上がって、この「屋上」に避難するという選択肢が残されていたのです。
 プールの「水面」では、優しい「微風」が吹き抜けて、ピンク色に染まった「波紋」が拡がろうとしていました。ピーターの七色に変化する「歌声」が聴こえてくる。プールの「水面」がブルーに変化する。哀愁を帯びた「旋律」が静かに流れる。三匹のバーミリオン色をした「大蛇」が、私の「脳内」で鎌首をもたげたのです。
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# by artbears | 2014-09-28 19:12 | 連白

イングランドの陰影と憂鬱、巨大な白亜の建物と内部に巣食う洞窟、虚偽の戦争の現実

 イングランド、その陰鬱でメランコリックな響きには、この目の奥に広がる土色に濁った「海」が似合っていると思ったのです。あれは、季節は限りなく冬に近い「秋」でした。漆黒の「夜空」には蟹座や蠍座が徘徊していて、孤独が錆び付いた「鉄橋」から見下ろすと、私の「影」が黒く鈍く光る「水面」に溶け込むように見えたのです。
 「夕闇」はとっくに落ちていました。その「夕闇」のカーテンの向こうから「足音」が近付いてくる。真っ赤なチェリーの「花弁」が予告もなく落ちる。まるで「生首」がボトンと落ちているように視える。あれは、「春」が去っていく「足音」だったのかもしれない。それらが連続した「音」となって、私の耳の奥で規則的に聞こえて来たのです。
 クリスの「足音」に間違いなかったのです。彼のエメラルド色の「目」に出会った「記憶」が蘇って来たのです。彼の先鋭なドラムの「音」が聴こえて来たのです。
 道路の両側には煉瓦造りの「建物」が並んでいて、それらは古くて暗く、「夜」のメランコリックな「気配」に満ちていました。土色に濁った「海」からの乾いた「風」が、「木立」を枯らしている。知らぬ間に、天界は煌々と「光」を放つ「月」に支配されていたのです。
 私は、私の「驚愕」をどこにも隠すことができない。巨大な「建物」が白い塊となって聳え立ってくる。私の「精神」が押し潰される。あのメランコリックな「気配」は、どこかの「路地」に追いやられたに違いない。後退りする私を、あのアパルトマンの「人影」が抱き抱える。抑揚のない「声」が、私の「背後」から、私の「返答」を待っていたのです。
 ショーウィンドウには、一枚のアルバムが飾られていました。いくつかの「洞窟」からなる不思議な「空間」が描かれていました。私は、一つの「洞窟」に「目」を奪われて、奥へ奥へと引き込まれて行ったのです。薄暗がりの中から浮かび上がる「階段」、ぼんやりと見える「通路」、それらの果てには、遠くて懐かしい「記憶」が待っているように想われたのです。性急なる「情動」が、私を突き動かし、死と背理した「誘惑」が、私を急き立てる。私はクリスを追って、全速力で「階段」を駆け上がったのです。
 逃げ惑う「群衆」とすれ違う。様々な「色彩」にペイントされた「顔」と鉢合わせになる。「色彩」だけが通り過ぎていく。私の情報処理の「能力」を超えたスピードで過ぎる。その中に、あの飛行機のモニターに映っていた「犯人」を視たという「記憶」が浮かんでは消える。「犯人」を追跡しているのか、彼から逃亡しているのか。私は、目の前の重厚な「扉」を無意識で開いていたのです。
 「部屋」に入ると、「映画」が上映されていることを告げる、もう一人の「私」が立っていました。彼が口元に立てた一本の「指」の言わんとすることを察した私は、黄土色の粘土質の「土砂」を固めて造った「階段」を慎重に降りて行ったのです。最前列の「座席」には、「少女」からの「手紙」が置かれているとも告げられていたのです。
 左右の「座席」はすでに瓦礫と化していました。それらの隙間からは、憂いを帯びた動物の「目」が覗いていたのです。それらの純粋無垢なる「目」に見詰められる。「階段」を降りようとする私を、彼らの「目」が執拗に追う。「返答」に窮する私を、問い詰める。私の「精神」は、名付けようのない茫漠とした無知無明の「地平」とつながったのです。
 「画面」には、容赦なく「爆弾」を投下している爆撃機が映されていました。地上では無音の「花火」が次々と開き、「狂気」にして完全完結なる「消費」が繰り返されていたのです。これは「映画」なのだと言う、もう一人の「私」の言い訳が空々しく聞えました。この大量殺戮の「狂気」が堰を切った「洪水」となって、この「部屋」に押し寄せてくる「光景」が、目の奥に現れたのです。
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# by artbears | 2014-08-24 16:49 | 連白

暗闇から浮び上がる記号、身体から呼び戻された記憶、懐かしの瞬間と他者からの言葉

 私の「心臓」は氷に触れているように感じたのです。黒い頭巾を被った「老女」が光の届かない「海底」から昇ってくる。そんなイメージが目の奥で再生されたのです。「老女」は「階段」を一歩上がる毎に、少しずつ白みを帯びてくる。そして全体に明るさが増してくる。それは、「暗闇」から浮び上がる神秘的な「記号」のように視えたのです。私は「老女」の「言葉」を待ちました。別の「時間」を生きた「証言」を待ったのです。
 「言葉」が「気泡」となって上がってくることに驚きは隠せなかったのですが、正直言って多少の「期待」はありました。しかし「気泡」に群がるシャークを視たときに、その「期待」は無数の「水泡」となって消えていったのです。
 ここには「暗闇」しかない。その「暗闇」に向かって、「老女」が何かを喋っている。まるで白黒の「映画」の一画面のようだ。アムステルダムの「街灯」、紅いスカーフと震える「手」、聞き取れない「言葉」、それらは、遥か遠くから「風」に乗って運ばれてくる「梵鐘」のように、重々しくて悲しい。
 私の「耳」はブルブルと震え始めました。熱いのか寒いのかが分からない。何れにしても、私の「耳」が真っ赤に腫れ上がっているように感じたのです。
 私は「水面」に顔を近付けました。強力な「引力」が、そこから離れることを許さない。「鏡面」に現れる私自身を待つしかない。すると、そこには、あのエメラルド色の「海」の照り返しで同色に染まった「空」が、どこか見覚えのある懐かしい「瞬間」として、写し取られていたのです。「風」が吹き、「少女」の藍色のスカーフが宙に舞う。突然の「真実」を視たという「感情」が忘れられなかったのです。
 それを、「必然」の出来事であったと考えることにしたのです。それは、私の過去の「記憶」が「身体」の中で生き生きと蘇った「瞬間」だったのです。「記憶」は決して「身体」から離れて存在するものではない。私の「記憶」が正しいとも限らない。他者の「記憶」との再会によって初めて、その人生における「意味」を獲得することができると思ったのです。真実の「原石」は、他者の「言葉」に秘められていたのです。
 「空港」のロビーに靴音が響いている。その「音」は、私の「記憶」の中でも反復して響いている。うな垂れる「受話器」が一本のコードで辛うじてぶら下がっている。出発か到着かの「記憶」は消されたようだ。私は配られたカードを「手」に握り締めて、とにかく「空港」から離れることにしたのです。「賽」はすでに投げられている。私は「座席」に拘束されている。不思議なことには、離陸の「恐怖」は感じられなかったのです。
 それを、「偶然」の出来事であったと考えることにしたのです。私の目の奥には、積み重ねられた「残像」のファイルが存在する。偶々、最初のページが開かれると、そこには滑空する戦闘機の「残像」が在って、次のページには浮上する潜水艦の「残像」が在った。それらが、シャークへの恐怖の「感情」によって繋ぎ合わされたのです。あの「事件」は、それ以上でもそれ以下でもなかったと、振り返って思ったのです。
 振り返ると、私の「意識」にも遠心力が働いたようでした。全く別の「光景」が脳裏に張り付いていたのです。鉛色の「曇天」が重く垂れ下がる。「海面」に白いたてがみのオオカミが走る。私の目の奥から、ロンドンの南方に位置する、今や廃墟と化したかつての「産業都市」が現れてきたのです。その背景には、あのエメラルド色の「海」は消えていたのです。
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# by artbears | 2014-07-27 13:09 | 連白

目の奥に現れた戦闘機と潜水艦、エメラルド色に光る海、水没した螺旋状の階段の秘密

 その時、アパルトマンの「上空」を金属の悲鳴のような「音」が通過したのです。見上げると、戦闘機の銀色の「胴体」が目に飛び込んだ。不気味なシャークの「腹部」が目の奥に現れた。それからキーンという「音」が垂直に落ちて来たのです。蒼い「公園」の針葉樹の「木立」は、その「音」に向かっていっせいに背伸びをする。灰色の下地の上に、紫色の刷毛の一筆が走る。急変の「曇天」を背景にして、いくつもの教会の「尖塔」が乱立して視えたのです。無音の「鐘」が左右に首を振ったのです。
 「窓」は開け放たれていました。「人影」がアパルトマンの住人となったのです。古びた煉瓦の「外壁」の上に置かれた「手」が見える。その動かない「手」を、私はしばらく「外壁」に触れたままにしたのです。そのザラザラした「感触」が、私を問い詰めたのです。とにかく終わらせたかったという「感情」が浮かんでは消える。私は、あの忌まわしい「部屋」から抜け出たことを「実感」したのです。
 「窓」は開け放たれていました。サクソフォンの「音」が流れて来たのです。ジョンの乾いた「音」でした。肉塊のトンネル、艶々した紅い「内壁」が、金属の冷たい「管」と繋がっている。黒人の「苦悩」が解き放たれる。肉体から遊離した純粋な「苦悩」が響く。再現性のある「音符」の組み合わせが、私の過去の「感情」を呼び覚ましたのです。その振動する「空気」は、私を何度も取り囲んで来たものでした。ベッドの上の日溜まりが懐かしく思われました。黒いレコード盤がクルクルと永遠に回っている。それが、目の奥に現れたのです。
 「木陰」が「木立」と対立した概念であるとの「認識」はなかったのですが、私は何かに急かされるようにして「森林」に分け入っていました。そこは、「公園」と「認識」されていた場所でした。知恵者のカラスの「眼光」が、私の背後で「翼」を拡げる。長くもなく短くもない「距離」を歩きながら、それは、「光線」と「精神」が決めることだと思ったのです。
 蒼い服だったのか、青い服だったのか、そもそも「少女」は脱衣させられていたのかもしれない。麻酔をかけられた白い象牙の「肌」が浮かんでは消える。ベンチの上には、柔らかくてしなやかな黒革の「手袋」が忘れられていました。確かに「少女」の後の証言のように、その「手袋」にはボタンが付いていなかったのです。
 私は立ち止まり、大きく息をして、再び「落葉」を踏み付けながら歩き始めたのです。一歩毎に「雨」の匂いが弾ける。「草叢」に身を隠した動物の臭いと混ざる。想定外の「獣道」との出会いは、私を左前方に誘導するかのように曲がっている。「獣道」の薄暗がりの先には、得体の知れない動物の「気配」を常に感じる。私は歩き続けたのです。やがて、前方を塞いでいた鬱蒼とした「木立」が開かれると、その向こうからは、「海」の塩気を含んだ匂いが漂って来たのです。
 私は赤い煉瓦を敷き詰めた「坂道」に出ました。その「坂道」を右手に下った先には、エメラルド色に光る「海」が広がっていたのです。その「場所」は不思議なことに、あのアパルトマンの裏側に位置していたようでした。無数の煉瓦が剥がされていることから、「坂道」が工事中であることが容易に判断できたのです。
 進入禁止のバリケードに囲まれた巨大な「穴」から覗き込むと、そこには、途方もない量の「海水」が湛えられていて、あの「部屋」へと繋がる螺旋状の「階段」が水没していたのです。そして、「階段」を昇るように回遊する不気味なシャークの「背部」が視えたのです。灰色の潜水艦が浮上する。それが、目の奥に現れたのです。
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# by artbears | 2014-06-15 16:43 | 連白

木陰とベンチに座る少女の手袋、木立と階段を上がる老女の蝋燭、人影と不安の関係性

 飛行機がゆっくりと離陸する。その「映像」が着陸する「映像」と瞬間的に置き換わる。それが、トランプを切る素早い手付きのように何回か繰り返される。裏表が逆になる。私はうんざりする。私と飛行機はすでに「雲海」の上に在ったようでした。
 コンクリートで造った土管のように見える円筒形の「機内」が揺れる。テレビモニターに映し出された「犯人」の口元の皮肉な薄笑いも揺れる。私は、まるで万華鏡の「内部」に迷い込んだような居心地の悪さを感じたのです。小窓から「外部」を一瞥すると、緑色の「木立」が後方に吹き飛んでいく。着陸の「恐怖」が、私を強張らせたのです。
 リュクサンブール公園というフランス語の心地良い「言葉」が聞こえて来ました。そこが魅力的な公園であったという「記憶」は少しも無かったのですが、その軽やかな「言葉」の響きだけが残っているのです。「太陽」は目的もなく漂う雲を追い払って、その前を、一つの孤独な「白雲」が悠々と通り過ぎていく。私の「時間」も刻々と滑るように経っていく。その「光景」が、まるで目の「表面」を触っているようでした。
 「視界」は再び緑色に覆われました。「木陰」では木漏れ陽がキラキラと舞って、ベンチに座る「少女」は静かに「手袋」のボタンを嵌めていたのです。
 パリのアパルトマンは、小窓から視えた「木立」よりも、むしろ公園の「木陰」と密通した「関係」にあったような雰囲気が感じられました。とにかく窓からの「陽光」が眩しい。緑色の「光線」が手の平に葉脈を焼き付ける。その時、通りすがりの「強風」に、窓枠がガタガタと軋む音を発てたのです。振り向くと、カーテンが無言で佇む「人影」に見えたのです。音を使った巧妙な手口で、「不安」はアパルトマンに侵入したのです。
 何としても、この「不安」から身を引き離さなければいけない。ベッドに腰掛けていた私は、足先に体重を掛けて立ち上がり、何歩か足を運びました。予想した通りに、床板はギシギシと軋む音を発てたのです。その「音」には密告の「言葉」の持つ、衝撃性と一貫性がありました。私は思わず「耳」を塞いだのです。ところが逆に、その奇妙な「耳」のブヨブヨした「感触」に度肝を抜かされたのです。
 何を置いても、私は「鍵」を掛けるべきだと思ったようでした。今から振り返ると、そのように行動していたのです。でも、その判断の「根拠」なるものは、永遠の「謎」に包まれているのです。その「矛盾」にこそ「根拠」があり、夢の「真実」が隠されているのかもしれなかったのです。
 木製の重厚な「扉」と手垢の付いた真鍮製の古びたノブが「視界」に残されていました。しかし「鍵穴」には、ステンレス製の真新しい「鍵」が内側から施錠されていたのです。その後、背後から「人影」が迫って来るのを感じ、その媚薬のような「気配」に、私は陶然としたのです。
 耳を澄ませると、階段をゆっくりと上がる「足音」が聞こえて来ました。巻貝の「内部」を想わせる螺旋状の階段には、黒い頭巾を被った「老女」の姿がくっきりと浮かび上がったのです。手に持った蝋燭の「炎」が怪しげに揺れたのです。
 私は、「人影」を真正面から見据えることを決断しました。振り向くと、窓が開け放たれて、カーテンが風に靡いていたのです。窓際に在る「脚」が異常に長いベッドには、洗い立ての木綿のシーツが敷かれていて、そこには日溜りの「痕跡」が残っていたのです。
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# by artbears | 2014-05-27 20:46 | 連白

左眼の憂鬱又は迫りくる白壁への不安、左岸に咲き誇る山桜と無意識に沈む救済の言葉

 私の「意識」は「夢」との境界を越えようとしていたのかもしれない。白夜のような「夢」の中、無意識の厚い「雲海」を通り過ぎる。どこかで着信音が鳴っている。「夢」が「現」に呑み込まれていく。親和性のある小さな「部屋」に降り立ったことが知らされる。私の「意識」のドアが開かれて、明け方の微かな「光線」が差し込んで来たのです。
 白い二枚の「壁」が左右に段違いになって、薄暗がりの「空間」に浮かび上がっているように視えたのです。それは、近くに在りながら遠くに感じる、なにか蜃気楼のようなものが立ち上がって来る「気配」でした。その表面には、朝方の「光線」を受けて白っぽくなった「壁」を背景にして、ワイングラスの「影」がぼんやりと写し出されていたのです。私の「意識」は、再び蝋細工の「手」となって、その「幻影」を掴もうとしたのです。
 「光線」は清らかで、透き通るようでした。グラスの中では、赤と白の芳醇なる「海」が揺蕩っているように視えたのです。「光線」が身体を僅かにかすめる。それを覚える。でも、私の「手」は震える「影」としては写らない。「手」が宙をつかむ。その一瞬の出来事の後にグラスは消えたのです。そして再び、「壁」は白っぽさを取り戻したのです。それは、引潮の後の「浜辺」のようでした。
 しばらく「壁」を凝視する、そして息を呑む。すると「砂浜」から滲み出る「砂絵」のようにして、「海面」から顔を覗かせる「海石」のようにして、ワイングラスの「影」は再び浮かび上がって来たのです。私の「脳」は、それを視ることを欲していたのです。それは、私にとっての至福の「時間」の象徴でもあったからでした。
 左の「壁」が右のそれよりも迫って来るように視えるのは、恐らく、私の「左眼」が遠近感の調整が上手く出来ないからに違いなかったのです。そう言えば、グラスにワインを上手く注げなかったことが思い出される。「血液」がグラスを伝う。「血糊」が紅く付着する。私の「左眼」は依然として病んでいたのです。    
 それを知ってのことなのか、左の「壁」が一段と近付いて来るのです。右の「壁」よりも大きく視える。両目の焦点が合わない。逃げ場がないという恐怖の「感情」が溢れる。その白濁した「色」、その茫洋とした「形」、それらの説明を拒絶した「存在」の不気味さが、私の「意識」を震撼させたのです。私の「左眼」はバーガンディ色の「液体」で充満して、真っ赤に染まった「海」が間近に迫って来たのです。
 私は即座に、この不可解極まりない「状況」から逃亡を計らなければならないと考えました。あの無意識の「雲海」に引き返して、この「状況」とは無縁の「言葉」を探すことにしたのです。私自身を救う「言葉」を欲したのです。「左眼」という「言葉」の呪縛から逃れたかったのです。私は再び両目を固く閉じました。
 「左岸」に咲き誇る「山桜」を視たという「記憶」は永遠に消えるものではありませんでした。無意識の「左岸」に一列になって咲く「山桜」、その両目が薄紅色に染まるほど鮮やかな様子に、私は何度も陶酔の想いに耽ったのです。「河川」は滔々と流れる。「桜花」が悠々と映る。その満開だった「山桜」も嘘のように散り終えて、「山野草」が繁茂する季節が知らぬ間に訪れるのです。「過去」に拘ることもない、「未来」を憂うこともない。あの「山桜」のように無知で無防備であってもよい。慈愛に満ちた「光線」が両目に拡がったのです。
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# by artbears | 2014-04-30 19:34 | 夢白


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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