夢博士の独白



結末又は発端としての記憶、北欧の青空と精神の教会、御影石に封印された白い山野草

 セーヌは流れる。美しい足し算の永遠の反復のように流れる。「記憶」の川が「結末」から遡るようにして流れていたのです。「発端」には、セーヌ右岸の小高い丘には、カフェ・モンマルトルの「記憶」が在りました。もう一枚の「枯葉」が流れてきたのです。
 中古レコード盤の曖昧な灰色をした「眩暈」が回転している。それは、新宿での出来事でした。魔法をかけられた生き物のように動く「手」によって、セシルの「音楽」は無情にも断ち切られたのです。レコード盤の「裏面」が反転される。カフェ・モンマルトルがデンマークに存在したという「事実」が語られる。私の「記憶」も反覆されて、新しい「過去」に上書きがなされたのです。
 ストックホルムの地下道では、アルバートのサクソフォンがせせり泣く。時として「咆哮」する。その「音色」自体が悲しみを抱いている。その「旋律」自体が苦しみに耐えている。北欧の「青空」は鉛色に曇り、重い「苦悩」が垂れ込めていたのです。
 一方、セシルのユニットは、カフェ・モンマルトルでのライブに臨もうとしていました。その「音源」の一週間前に、二人の出会いが存在したという「物語」が現実味を帯びてきたのです。今となっては誰一人として確かめられない「物語」、それが「真実」であることに向かって、「記憶」が逆流を始めたのです。
 濃淡も様々な灰色の「雲海」が流動を速めていました。その「雲海」から、銀色の糸となって、銀色の針となって、光を纏った「雨」が落ちてくるのが視えたのです。それらが次々に「記憶」の水溜まりに突き刺さる。「記憶」の波紋は「真円」を描いて拡がり、やがて別の波紋と結ばれて、一つとして「原形」を留めるものは無かったのです。
 待ち合わせの「場所」であるカフェでは、黒いワンピースを着た「少女」が、淡い生成り色の「日傘」を差していました。その「日傘」に施された上品でエレガントな「刺繍」が紡ぎ出したのは、マネの「黒衣」とモネの「日傘」の結合したイメージだったのです。安堵と焦燥、興奮と冷静、それらの相反する「感情」を分け隔てるようにして、カフェの「空間」と「私」の間には、分厚いガラスの「壁」が立ち塞がっていたのです。
 私は、ガラスに映る「少女」の面影を追いながら、右方向に湾曲して下る「階段」を降りることにしました。多くの男女が「階段」の左側に並ぶ。彼等の「会話」と「視線」に注意を払う。一刻を争うことではないが、「記憶」の「原形」が失われてはいけない。私は、直感的にカフェへの「入口」の見当を付けていたのです。
 薄暗がりは息を潜めて、エレベーターの「扉」を開いて、私を待っていました。その「暗闇」に入るや否や、セシルのピアノの硬質で彫刻的な「音塊」が、圧倒的な「音質」の凝縮力と圧縮力をもって、その「空間」を封印したのです。
 エレベーターは最上階を目指して、猛スピードで上昇しました。「音」と「音」との緊張関係が高まる。「音間」に存在する不純物が削り落とされる。ある種の真空状態が創造される。セシルの静謐で高貴なる「音楽」が、その「空間」を支配したのです。
 薄明かりは息を弾ませて、エレベーターの「扉」を閉じて、私を招き入れました。その「暗闇」を出るや否や、深い縦長の構造の「教会」が、拝廊のような「空間」が現れたのです。「白雲」の高さにまで達する「天井」には、数学の計算式のように美しく端正な「枠組」が、ステンドグラスの代わりの「役割」を果たしていたのです。
 漆黒の御影石が至るところに転がっていました。その「鏡面」には「青空」に浮かぶ「白雲」が映され、その「内面」には純白の可憐な「山野草」が閉じ込められていたのです。清明にして厳格なる「精神」が視覚化されている。創造の「世界」が結晶化されている。私は、そのリリシズムに触れることにより、そのストイシズムを視ることにより、私自身の「精神」を変えることの可能性を感じ取ったのです。
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# by artbears | 2015-06-30 12:54 | 連白

水底に眠る一枚の枯葉、目覚めた白い記憶と黒い亡霊、奔出する情念と燃え尽きた音楽

 私の「手」は意を決して、透明の「液体」の中に侵入したのです。すると、土色の「煙幕」が張られる。透明の「秩序」が崩れる。視界が不良となる。濁った「液体」がひとりでに動いて、小さな「旋風」となって、私の「手」を包み込んだのです。
 「視覚」を「触覚」に切り換えるしかない。手探りの「暗闇」に直に触れるしかない。暗中を模索する。私は盲目の「手」となって、「水底」の「枯葉」を掴もうとしたのです。折り重なるようにして眠る「心底」の「記憶」を拾おうとしたのです。指先の鋭敏で繊細なる「感覚」が高まる。一枚の「枯葉」に触れたのです。
 その「暗闇」は、やがて黒い「亡霊」となって、私の「精神」を何度も揺さ振ることになりました。深くて重い感傷と興奮の「時間」が刻まれていく。底知れない哀愁と激昂の「空間」が拡がっていく。私の白くて柔らかい「皮膚」は、その「熱風」に焼け焦がされたのです。黒い「太陽」が爛々と燃焼する。黒い「肉体」が蕭々と舞踏する。それは、彼等の黒くて逞しい「皮膚」に染み込んだ情念の「業火」のようでもありました。
 私の「目」は意に反して、暗黒の「世界」の中に陥入したのです。黒い「亡霊」が滑るようにして動いていく。振り向いた「顔」だけが、慌ただしく遠くに消えていく。律動する「呼吸」、循環する「血液」、躍動する「肉体」、それらの「痕跡」を残して消えていく。そして、最後まで振り向かなかった黒人の「後姿」が視えて来たのです。二人の「音楽」が聴こえて来たのです。彼等の「音楽」に内在する唯一無二の「秩序」と「構造」が、私の耳の奥に現われたのです。
 もちろん、彼等の「音楽」は黒人で在ることを超えた普遍性を勝ち得たものでした。人生の「実相」と人間の「実体」、そして何よりも生きることの「苦悩」と「矛盾」が、その「音楽」には濃縮され、昇華されていたのです。ジャズの「終点」は、常にジャズの「原点」に立ち戻ることで、その「円環」は閉じられていたのです。
 窓ガラスの向こうでは、摩天楼が蜃気楼となって、「不安」と「期待」を煽るかのように揺れていました。ジャズが最も熱い「時代」を駆け抜けていたのです。「鉄骨」だけが剥き出しになった未完成の「建物」が至る所に起立している。何台ものエレベーターが、死刑台へと運ばれる「箱」となって、上昇と下降を繰り返していたのです。
 とにかく「処分」しなければいけない。このカラカラに乾燥してしまった「枯葉」を、何処かに捨てなければいけない。何かに急かされるようにして、誰かに衝き動かされるようにして、私は、「扉」を開けて待つエレベーターに飛び乗ったのです。
 閉塞感のある「空間」に閉じ込められる。サクソフォンのフリーキーな「音塊」が反響する。創造と破壊を同時に執行する「音群」の波状攻撃が始まる。「空間」が抽象的に変質する。いっさいの「虚偽」を排して「虚無」に徹する「音楽」が延々と続いたのです。しかし、悲しいかな「純粋」なるものの持続は在りえない。「天国」に向かって急上昇するエレベーターが、「地獄」へと急降下する一瞬のタイミングで、私は、その「箱」から飛び降りたのです。
 エレベーターから降りると、コンクリートで造られた「部屋」が待っていました。窓ガラスが嵌められていない、それも極端に「窓枠」だけが大きな「空間」に、私は不安と狼狽の入り混じった「感情」を覚えたのです。「疾風」が吹き抜ける。ホッパーの「絵画」が浮かぶ。一人の黒人が「椅子」に座っていました。その相対的に小さく見える「後姿」は、彼の「孤独」を物語っていたのです。「窓枠」の向こうには、イーストリバーの「水面」がキラキラと輝いていました。彼の「視線」が、何を求めているのかが分からない。「対象」の不在が暗示されていたのです。
 彼の「視線」の先を追い掛けると、「孤独」をひとりで渡る「橋」が視えました。私の「記憶」の「川」にも「橋」が架けられたのです。アルバートの「死体」が浮かび上がったのです。それが、他殺であったのか、自殺であったのか、その両義的な可能性が、彼の「矛盾」となる。私の「苦悩」となる。アルバートの生命の「炎」は、彼のジャズのように燃え上がり、彼の「音楽」と一体になって消えたのです。一枚の「枯葉」が燃え尽きたのです。
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# by artbears | 2015-05-31 10:54 | 連白

記憶の内海と汚染された外海、閉された空間と時間への恐怖、心を開く鍵としての言葉

  「城郭」は強固な「石垣」によって形成されていた。その内側には「樹木」が繁茂していて、その外側には「内堀」が張り巡らされている。巨大な人工的構造物が、壮大な歴史的構築物が、私の目の前に現れたのです。それは、動かない大きな「動物」のようにして、私の目の奥に現れたのです。
  「外堀」はとうの昔に埋め立てられていた。その「記憶」が残っていない。その「事実」が消えている。風光明媚な「内海」と広大無辺な「外海」が急速に「関係」を深めている。個人の「死」を超越した大きな「汚染」が、確率論を前提にした見えざる「危機」が、ヒタヒタと打ち寄せる「細波」となって「護岸」を侵食している。忘れてはならない。あの「記憶」を風化させてはならない。
 私は、「護岸」から遠くを眺めることにしました。すると「海面」が垂直に立ち上がってくる。「現実」が「壁」となって立ち上がってくる。人類滅亡の「危機」が、その可能性を秘めた「原発」が、確率計算によるお墨付きを得て、「世界」の至るところで稼働している。
 黒い不気味な「原潜」が、垂直に起立する「海面」のスクリーンに映し出されたのです。分厚い「暗闇」の彼方から、無数のシャークを引き連れて現れたのです。シャークの刃物のような「尾鰭」が左右に振れる。まるで「時計」の振り子のように振れたのです。
 潜水艦はゆっくりと進水する。その「映像」が浮上する「映像」と瞬間的に置き換わる。それが、ページをめくる素早い手付きのように何回か繰り返される。前後が逆になる。私は溜息をつく。私と潜水艦はすでに「深海」の中に在ったようでした。
 ミシミシと「内壁」が悲鳴を上げている。その「音」が、私の「脳内」で反響拡大する。密室としての「空間」への恐怖の「感情」が、否応がなく増幅したのです。底無しの「海底」までの距離感が把握できない。奈落の「海底」に落ちている。どれだけの「時間」が、私に残されているのかが判らなかったのです。
 私は「救済」の願いを込めて、「外部」を観察しようとしたのです。ところが、分厚いガラス窓に映っていたのは、あの「犯人」の死人のような「顔」でした。私は今度こそ、「犯人」の正体を暴くために素早く振り返ったのです。すると、そこには、もう一人の「私」が立っている。生きる「苦悩」が立っていたのです。
 悪い「夢」を見るのは止めようと思ったのです。人の心には「鍵」がある。忘れてしまいそうな「記憶」と閉まって置きたい「感情」がある。「言葉」によって、その「扉」を開こうと考えたのです。「言語」によって、この閉塞した「部屋」から出ようと考えたのです。根源的な「空虚」を問い詰めるのは止めようと思ったのです。
 ニューヨークのホテルの「窓」からは、眼下に「公園」が見下ろせました。私がさっきまで座っていたベンチは視えるのですが、私の「痕跡」は完全に消えている。その代わりに、雨上がりの大地の「湿気」、濡れた動植物の生温かい「生気」、それらの「空気」が、私の「記憶」に留まっている。そのことを想うと、「公園」が微笑んで見えたのです。
 トランクを抱えた「旅人」が、ベンチの前を通過するのが視えました。そのトランクの中には、私の愛惜の「時間」が詰め込まれているように想えたのです。
 とにかく「旅人」である私は、この「部屋」から出ることにしました。螺旋状の「階段」が屋根裏に近い別の「部屋」に通じていることは、薄々分かっていたのです。一つの「夢」から脱出すると、もう一つの別の「夢」が始まることも、重々解かっていたのです。
 凍て付くような寒々とした「部屋」が待っていました。北方に向いた「窓」からは、純白無垢の「粉雪」が吹き込んでいたのです。「視線」が足元に移動する。「木枠」の中の透明な「液体」に気付く。たくさんの「枯葉」が沈んでいる。それは、私の「意識」に静かに堆積してきた「記憶」のように見えたのです。そして、透明の「生物」が「枯葉」に隠れて生息している。私は、この「枯葉」を取り除くことから始めようと思ったのです。
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# by artbears | 2015-04-29 12:01 | 連白

感覚認識と別世界の存在、拡大する夜又は感情の領域、空虚なる場所での他者との再会

 知らぬ間に「時」が滑るように過ぎていく。完璧な「瞬間」など、どこにも「存在」しなかったかのように、「無言」で速足で過ぎていく。何かの「追跡」から逃れるようにして、止まることの「虚無」を恐れるようにして、それは過ぎていく。
 薄くて消え入りそうな二本の「線」が、私の目の奥の「空間」に現れたのです。その平行に走る白い「線」が、どこかで交わる「予感」が生まれる。しかし、その決定的な「瞬間」は、「知覚」では捉えることはできない。見えないからこそ、見えることが「存在」している。感覚認識の「世界」に影のように寄り添う、もう一つの別の「世界」が在る。
 ふと我に返る。遠い過去の「私」に帰る。正確には、あの懐かしさと郷愁感に満たされた「私」、美しい「内海」を眺め遣る「意識」に戻ったのです。すると、夕暮れ前には、真っ赤に燃え滾っていたはずの「太陽」が、つるべを落とすかのように水平線の下へと「姿」を消し去っていたのです。一触即発の「海面」、蒸発沸騰の「海水」を想像する。私は「知識」で、この不可解極まりない「世界」を見ていたのです。
 ふと振り返る。孤独な「城郭」の影が伸びている。満天の「星空」の下、不気味な「気配」が立っている。増殖する巨大な「暗闇」、その奥行きのある「空間」が、私を背後から「拉致」しようと待ち構えていたのです。とても深い「夜」、まるで死のような「夜」、その大きく切り裂かれた傷口のような「空間」に魅了されてはいけない。悪霊と精霊が同居する、この野放しになった「自由」が支配する「世界」に踏み入れてはいけない。
 私は「石段」を転がり落ちるようにして下りました。青白い「月光」が、私を照射している。夜陰に隠れた「狂人」が、私を見詰めている。視覚を奪われた「私」は、聴覚と嗅覚が異常に研ぎ澄まされたのです。肥大化した恐怖の「感情」は、様々な想像上の「怪物」を創り出し、それらは野に解き放たれたのです。
 「感情」が、被害妄想となった「想念」が渦巻いて、この現実の「世界」を席巻している。忌避すべき悪の「領域」が急速に拡大している。叡智と寛容の「精神」が、放縦と陶酔の「感情」に翻弄されて、「世界」は単層構造に集約されようとしている。
 不吉で奇怪な「怪物」が跋扈する「森林」が、私の目の奥の「空間」に現われたのです。予想していたことではありながら、私の「精神」は動揺を隠すことができませんでした。見えない「心」の枠組みが、それを通して「外界」を見ていた「窓枠」が、崩壊の「危機」を迎えているのです。ロシアの政治家が、冷徹無比にして頭脳明晰なる実在の「怪物」が、「世界」をチェス盤に見立てて、次の「一手」に思索を巡らしている。そんな「時間」が刻一刻と過ぎ去っている。戦争の「足音」が聞こえてくる。
 夢のような「未来」は無い。悪夢のような「現実」が近付いている。白日夢のような「過去」が、「無音」の回転木馬となって、「無人」の観覧車となって、空回りを続けている。私はやっとの思いで、かつての遊園地と呼ばれていた「場所」に辿り着きました。しかし、その「場所」もすでに、「空虚」によって占拠されていたのです。
 その「場所」では、春の「足音」も聞こえていました。春の「息吹」が、桜の「蕾」にはち切れんばかりに充満して、季節の「歯車」が着実に回転していることを報せていたのです。そして、私の目の奥の「空間」では、いずれ見事に満開となるであろう「桜花」が、すでに咲き綻び始めていました。「認識」を変えれば「世界」も変えられると思ったのです。
 私は「少女」の「痕跡」を、聖なるものと俗なるものとの往還の「足跡」を、探し求めることにしました。子供でもなく大人でもない未成で未性の存在としての「少女」、その相反する両義性によって、時には「境界」を越境することに傷付き、時には「境界」を前にして力尽きる、その未成熟で不安定な「存在」、その「他者」との「再会」を願ったのです。一つひとつの「桜花」が花開く、その決定的な「瞬間」の連続が、春の「時間」を形成していくことを願ったのです。
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# by artbears | 2015-03-29 17:57 | 連白

紅く燃える草原と白雪の台地、欠如への欲望と象徴としての少女、侵入する戦慄の戦士

 「少女」の熱い眼差し、その強度が鋭い「矢」となって、私の「目」を貫いたのです。磔刑の「聖女」が、私の目の奥に現れる。それは、霧の鏡に映る「薔薇」のように、火の炎に茂る「小枝」のように、私の目の奥で燃え上がったのです。
 私は意を決して、「少女」を追うことにしました。紅い野バラの「草原」が無限に広がる。無邪気な真珠色の「荊棘」、逃げ惑う子供達の「素足」、盲目の黒い毛並の「駿馬」、それらの秘められた「欲望」のイメージが、私の目の奥の「暗闇」を疾走したのです。
 この紅く燃え拡がる「炎」のような「草原」は、いったいどこまで続くのだろうか、その素朴な「私」の質問に、私は立ち止まることになりました。喪失の「階段」が崩れる。荊の「冠」が重い。茨が「足」に纏わり付く、そして這い上ってくる。私は動けない。欠如に向けられた「欲望」が、欠如の象徴としての「少女」への想いが、いっそう深く苦しく募ったのです。
 歩くことも走ることも、そのことに何ら変わりはなかったのです。そして、例え私に、小さな天使の「翼」が与えられたとしても、「天空」に舞い上がり、やがて力尽きて、墜落することは「目」に視えていました。私の「死」は、そのように訪れてくるに違いない。「草原」に虚ろに横たわる私の「屍」、その大きく見開いた「瞳孔」に紺碧の「空」が写る。「欲望」は遥か遠くを見据え、その「対象」は永遠の彼方に「存在」し続けている。そのことに何ら変わりはなかったのです。
 あの紅く燃えたぎる「焔」のような「光景」は、いったいどこに消えたのだろうか、その素朴な「私」の質問に、私は立ち上がることになりました。喪失の「地平」が延びる。季節は「冬」を迎えていました。あらゆる「色彩」が排除された「光景」が目の前に拡がったのです。白い「雪」に包まれた「台地」、その静寂の「世界」を前にして、私の「意識」が深く沈降していく。白い「闇」に向かって墜ちていく。
 その「時」のことでした。「天空」が割れ裂けんばかりの「雷鳴」が轟いたのです。黒雲が急速に「空」を覆い始めたのです。見上げると、まるでクジラのような巨大な飛行船が、私を威圧するかのように通過していく。巨大な蝙蝠傘が広げられて、太陽の「光線」が断たれようとしている。黒い雨が降り始める。やがて激しい「豪雨」となるに違いない。覚醒させられた「意識」は、私の日常性を覆す「異変」を感じ取ったのです。
 飛行船の真下には、重厚でメタリックな「扉」が聳え起ちました。それは、禁断の「城門」のようにも見えたのです。絶叫する人の「声」と炸裂するギターの「音」が聴こえてくる。向こう側から「越境」して聞こえてくる。その「音楽」には、生の「享楽」と死の「誘惑」が充満していました。「社会」に属しながら属さない両義的な「侵入者」、社会規範との「境界」を縦横無尽に突破する戦慄の「戦士」、その横溢するエロチシズムに、私は圧倒されたのです。
 ベトナムの「空」に黒い雨が降る。偽物の「戦争」に本物の「爆弾」が降り注がれる。偽善者は横行するが、犠牲者は連行される。星条旗が燃える。激怒の「感情」が「炎」と化したギターとなって、「床」に叩き付けられたのです。二人のジミーの弾くギターが、裸体となった「社会」を暴いて魅せ、その「仮面」を暴力的に剥ぎ取ったのです。彼等の大音量の「音楽」が、私の耳の奥で鳴り響く。私の「精神」は痙攣的に震撼する。
 「雷鳴」が遠ざかるにつれて、私の「精神」は平静を取り戻しました。私は「城壁」に沿って、「時計」とは逆回りに歩き始めたのです。「時間」を逆戻りしたのです。懐かしい「風景」との再会が続きました。私は過去に「意識」の主体を移動させたのです。
 「精神」は変わるが「意識」は変わらない。「城門」を通り抜けて「坂道」を上る。「城郭」の頂上から穏やかな「内海」を展望する。そこには、あの無慈悲な「空」も無愛想な「夜」も無い。「海」と「空」の「境界」が一直線となって、その消失点が銀色に輝いていたのです。その「光」に向かって、飛行船が悠々と進んでいく。忘却の「地平」に向かって、私の目の奥に消えていく。
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# by artbears | 2015-02-28 18:49 | 連白

揺れる城門と苦悩する私、形而上的不安へと帰還する精神、水面で花開く少女の眼差し

 閉ざされた「扉」と向き合うことは、決して不愉快なことではない。問題は、そのように見える「心理」のように思われたのです。「水面」が近付く。穏やかな「波紋」が拡がり、静かに消えていく。揺れる「扉」の向こう側に誰かが立っている。それは、過去の私、もう一人の「私」かもしれない。私の「心」が閉ざされていたのです。
 トランプを切る素早い「手」の動き、その瞬間々々に見え隠れする暗示的な「情景」、それらが目の奥で積み重なっていく。「扉」が、それらを閉じ込めていたのです。
 私は思考する。私は逡巡する。私はどこから来て、どこへ行こうとしているのかの「苦悩」が始まる。その「苦悩」は、秋のように深まるが、やがて泡のように消えていく。
 暫くすると、巨大化する「扉」が、鏡のように過去と未来を遮断する「城門」となって、立ち現われてきたのです。「城門」で隔てられ、その「城壁」の内部と外部で対峙する、ちっぽけな二人の「私」が視える。可能性としての二つの「現実」が視える。私の「意識」は気流となって上昇して、その「光景」を俯瞰していたのです。高揚する「精神」が、それを目撃したのです。
 右手の平で「城壁」をなぞる。左手の平で確かめる。その冷たい凝固した「意志」のような固さに驚かされる。私は「城壁」に沿って右周りに歩き始めました。「時計」が刻々と右回りに時を刻んでいる。「時間」に逆行することは許されなかったのです。
 「城壁」の所々が欠落していました。その「穴」が内部を暴露していたのです。私は「私」の「内面」を覗く。執拗に覗き込む。すると「記憶」としてのキリコの「絵画」が、その形而上的な「不安」が観えたのです。「精神」は望郷の念に駆られたのです。
 運動場のような「平地」が視えて、たくさんの黒い影のような「穴」が空いている。軌道から外された「貨車」が並んでいる。その背後では、「夜」を待つ「野犬」が群れている。一匹の黒い「狂犬」の白い「歯」が光る。建物の屋上には狙撃兵の「銃口」が視えて、テロリストは黒い「眼帯」をしていたのです。それは、私の「記憶」から削除された「顔」に違いない。逃げなければいけない。この「幻影」に囚われてはいけない。
 真っ青の「空」を見上げると、黒い「太陽」が白い「月」に呑み込まれようとしていました。軽く刷毛で掃いたような「薄雲」がゆっくりと流れてくる。二つの「白雲」が唐突に現われ、その「白雲」の合間に視えた飛行機は、次の瞬間には飛行場に着陸していたのです。タラップからは永遠に誰も降りてこない雰囲気だけが漂っていたのです。やがて取り残されたように佇む「私」に、「意識」が舞い降りてきました。「人影」が飛行機の「小窓」から、私を窺っているのが視えたのです。
 私の「視線」が機体の後方に移動するに従って、「小窓」が一直線に並び始めました。次々に「人影」が複製されていく。彼らの「視線」の彼方を振り返ると、茶褐色系の「色彩」の交響の中に、懐かしい人々の「顔」が浮び上がってきたのです。誰彼と特定できない「顔」の集団が、全体を構成していたのです。私の「緊張」は一気に氷解して、黒い影のような「穴」が透明の「水」で満たされていく。「涙」が地中から湧いてくる。それらが「鏡面」となって、刻々と「夜」への変貌を遂げる「空」を映し出したのです。
 無数の「水面」に写っていた白い「月」が、次々に黄金色の「衣」を纏い始めました。新たな「夜」が訪れようとしている。静かな「夜」が忍び込もうとしている。そのとき突然、無数のコバルトブルーの「小鳥」が、いっせいに飛立つ「羽音」が聞こえてきたのです。「水面」が青色系に一変する。黄金色に輝いていた「月」が、灰色がかった青緑色のグラデーションの「色彩」に沈んでいく。それに代わるようにして、「少女」の強い眼差しが浮び上がってきたのです。目の奥から浮び上がってきたのです。
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# by artbears | 2015-01-30 19:30 | 連白

暗黒の世界の深遠なる闇、純白の貝殻の純粋なる美、神への愛又は苦悩する二人の精神

 それは、太陽の放った「光線」に違いなかったのです。熱く「水中」を貫いている。硬く透き通って、強く自信に満ちている。その周辺では「光」の粒子が渦巻いていて、それは、脱ぎ捨てられた淡い金色のドレスが舞っているように視えたのです。「水」が沸騰して、「光」が燦爛している。あの「月光」のようなどっち付かずの素振りは見せずに、それは、一直線に「水底」を目指していたのです。
 ときおり「風」が吹くようにして、「小魚」の群れがどこからか現れて、何かの「出現」に怯えるようにして、深淵なる「暗闇」に吸い込まれていく。死の淵で開かれた大蛇の「口」、その暗黒の「世界」のような「穴」に呑み込まれていく。
 そのとき一瞬、あの「犯人」の薄い「唇」が震えて見えたのです。灼熱の砂漠の「太陽」が眩しい。「銃口」が無差別に向けられている。兵士と情報が次々と「国境」を突破している。焦点の定まらないシャークの「目」が左右に振れて、卑猥で官能的な「頭部」が迫ってくる。とにかく、離れなければいけない。この黒い巨大な「穴」に呑み込まれてはいけない。
 グローバルに拡大した「世界」が再び縮小に転じているのです。まるでバクテリアの増殖と死滅の「過程」が繰り返されているようだ。主権国家の枠組への「認識」が曖昧になっている。否、枠組自体の「存在」が否定されようとしている。パンデミックの「恐怖」、ポストモダンの「矛盾」とプレモダンの「蛮行」が同時に多発している。
 無意識の「目」が薄っすらと開かれました。すると、太陽の「光線」がスポットライトとなって「水底」を照らしていたのです。目の奥で何かが現れようとしている。私は「心底」から、それが、美しく清らかなものであって欲しいと願ったのです。この絶望の「未来」を目前にして、この暗黒の「世界」を背後にして、私は自らの「視線」の欲望を抑えることができなかったのです。
 それは想像上の「産物」ではなく、抑制と禁忌のヴェールから垣間見られる「光景」であるべきでした。豊穣なる「海」が、私を抱擁する。豊潤なる「海」が、私を溶解する。気が付くと、「純粋」なるものが、私の「視線」を支配していたのです。エメラルド色の翡翠で造られた「玉座」が現れる。その上に置かれた美しい純白の「貝殻」が現れる。至福の「光景」が、私の「脳内」に浮かび上がったのです。
 波打ち際の「白浜」、打ち寄せる「白波」の「音」が心地良い。それは地球の「心臓」、その「鼓動」が秩序と調和のリズムを打っている。どうやら、私の「意識」は、この巨大な「巻貝」の洞窟状の「空間」に移動したようです。艶やかに光り輝く「内壁」にそっと触れる。そのピンク色の肉惑的な美しき「器」に魅了される。私の「耳」も鋭敏なる音響の「器」となる。そして「巻貝」となって「音」を求める。遥か遠くから聞こえてくる高貴で優美で軽やかな「音色」が、私の「脳内」で響き渡ったのです。
 それは、グレンの弾くバッハに違いなかったのです。二人の異なった「精神」が時空を超えて出会う。古典の「精神」が現代の「精神」によって解体され解釈される。グレンの呻吟する「声」が聴こえる。悲しく愛おしく美しい「旋律」は、その「背後」にある「苦悩」を浮き彫りにしていく。神への「愛」が、「現在」に蘇ろうとする「苦悩」に置き換わる。その純粋で永遠なる「苦悩」が、繰り返して「再現」されようとしていたのです。「神」が聴こえる。「未来」が見えたのです。
 ゆっくりと「時間」が始まり、そして速まりました。そのテンポに合わせて、この巨大な「巻貝」のような「空間」が右回りに回転を始めたのです。「空間」が捻れる。「肉体」が軋む。ある種の遠心力に促されて、「精神」が「肉体」から遊離する。
 黒いレコード盤が、目の奥で右回りに回転している。「眩暈」のように回転している。黒く刻まれた「溝」が、私の「意識」を深く掘り下げていく。真っ暗な「空間」が続いて、やがて螺旋状の「階段」が見えてくる。「老女」の灯す蝋燭の「炎」が見えてくる。私の「精神」は、「海面」を反対方向から見上げていたのです。向こう側の「世界」で、陽炎のように揺れる「扉」が視える。それは、私を強く「拒絶」するかのように視えたのです。
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# by artbears | 2014-12-30 17:22 | 連白

巨大な白亜の建物又は文明の伝説、黒く塗られた世界の現実、光に充ちた無意識の水底

 この巨大な白亜の「建物」が至るところに建てられて来たという「伝説」が、まことしやかに囁かれていたのです。囁く、いったい誰が誰に、もう一人の「私」は沈黙で答える。私の「脳内」を覗き込むと、鳥たちが慌てふためき飛び回るのが見える。散らばった羽毛を掻き集めると「伝説」という「概念」が残っている。私は独りで、人工的構造物の「屋上」に立っていたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が吹き抜けました。言葉巧みな軽業師、「伝説」の語り部である一羽のカラスがフェンスに留まったのです。一息付いて半開きになった黒い「嘴」、その間から僧衣の裏生地のような赤い「内部」が視える。青紫の混ざった長い艶やかな「黒髪」が風に靡いている。血の滴るような赤紫の「目」が意地悪く覗いている。
 フェンスは、まるで「戦場」に張り廻らされた鉄条網のように双方向性がなく、「屋上」を「外部」から頑なに拒絶していました。コントロールできない「世界」の絶望的な「現実」が、その変わらない「本質」が痛々しく視えたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が通り過ぎました。黒い羽毛が逆立つ。黒一色に身を固めた超合理主義者であるカラスは、冷静に「風」の行方を読み、その「翼」を力強く羽ばたかせて「空中」に舞い上がったのです。
 その「背景」には、孤独に立ち竦む数多くの白亜の「建物」が視えました。それらの内のいくつかは、既に崩壊の「過程」に在りました。乱立して視えた「教会」が傾いている。無音の「鐘」が「文明」の消失を告げている。「自然」と「文明」の荒廃が同時に進行している。無数のカラスの群れが、黒い「斑点」となって拡がり、それらがしだいに「世界」を黒く塗り潰しているように観えたのです。
 そのとき、一陣の「北風」が吹き付けました。ピンク色に染まった「波紋」が、虚ろに浮かぶ「小舟」を揺らしたのです。水平を保ったプールの「水面」が、徐々に傾く「建物」の異常を報せたのです。この永続的な「不安」が、私の「足場」を崩し始める。この逃げ場のない恐怖の「感情」が、私を「谷底」へと突き落す。私はクルクルと回転する「眩暈」の渦に巻き込まれたのです。
 チクタクと「時計」の針が進む「音」がする。ネットリとした体液のような「感触」が、私の「意識」を呼び覚ます。一昼夜にして海中に姿を消したというアトランティスの「伝説」が、消え去った幻の「文明」が、私の「記憶」の「海」に浮かび上がったのです。もう一人のピーターの「歌声」が、私の「脳内」で響き渡ったのです。「自然」が異議を申し立てる。「市民」は逃げ惑う。「都市」は檻となり、「狂気」が感染する。確かに、人は「水」の下では生きられない。
 黒い「月影」の裏側が揺れて視える。木製の「小舟」の船底が揺れて視える。私は、「水面」を反対方向から見上げているのに気付いたのです。「私」はここにいる。それは、偽りの「感覚」かもしれない。頭上に浮かぶ「小舟」は、あのバーミリオン色をした大蛇の「死体」を運ぶ「器」かもしれない。無意識の「目」が光っている。とにかく、もっと深く潜らなければいけない。
 幾本もの「光」が束になって「水底」を目指して射していました。その周りを、銀色に輝く「小魚」の群れが通り過ぎて行く。それらの「集団」の動きは、まるで気紛れな「風」のようでした。銀色の「光」の塊となって、何かの「形態」を生もうと欲していたのです。
 一つの「集団」が喜怒哀楽の「顔」となって、私に向かってくる。「歓喜」の表情が「激怒」の表情に変化して、私を通り抜けて行く。振り返ると、その「顔」は泣いていたのです。私の白い「肌」には、魚のヌルヌルしたどこかエロティックな「感触」が残っていたのです。
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# by artbears | 2014-11-30 16:13 | 連白

表象としての水面に映る月影、回廊又は壁と水路の関係、視界に現れた裏切られた予感

 バーミリオンの「月影」が氷のようなブルーの「水面」で揺れる。それは、プールの「水面」から僅かに浮かび上がって視えたのです。ペラペラの「月影」が「水面」に貼り付いている。静寂の「歌声」が震えて映る。水の「妖精」がキラキラと舞っている。やがて一つの「月影」が壊れて、一つの「月影」が生まれる。その永遠の繰り返し、その生成流転の「表象」に、私はクラクラと「眩暈」を覚えたのです。
 どうやら、私は幻惑の「回路」に迷い込んでしまったようでした。沈黙の「燭台」が古代ローマの「回廊」に並ぶ。大理石の「円柱」は遠くまで続いているようなのだが、その先には、私の「視界」を遮るようにして、湿り気のある「濃霧」が立ち込めている。あの「月」の妖気を秘めた「光」は、いつの間にか、シャンデリアのクリスタルな「光」に変わっている。「濃霧」のカーテンを恐る恐る開くと、既視感のある驚きの「光景」が、私の「目」に焼付いたのです。
 依然として長い「回廊」は続いていました。右側には石組みの「壁」が、左側には石造りの「水路」が、私に謎解きを求めるように現れて来たのです。この左右のバランスを失った「感覚」、それが「記憶」のどこかの片隅に眠っていたのです。
 依然として暗い「回廊」は続いていました。いかにも堅牢な「壁」が、私の「耳」に触れるのが恐い。その上に彫られた「顔」が、私を誹謗中傷する「言葉」が怖い。「意識」は意味付けを急ぐのだが、「認識」までには至らない。見ていることが、必ずしも見えていることとは限らない。私の「精神」は、あくまでも冷静さを装っていたのです。
 私は「水路」に目を転じました。すると、「世界」は鮮やかに反転したのです。安堵の「感情」が、まるで滾々と湧く「泉」のようにして、私の「内部」に満ち溢れて来たのです。
 鮮烈な赤ではない。淡く優しいピンクの色調のバラの「花弁」が、ゆっくりと回転木馬のリズムに合わせて、まるでワルツを踊るような優雅さで流れて来たのです。うっとりとする甘い夢のような「香気」が漂って来たのです。
 既に先人の残した「足跡」が、私の歩むべき「方向」を示していました。そして、私が一歩一歩と「足跡」を重ねる度に、その「香気」は力強さを増幅する。やがて慣れ親しんだ匂いは未知なる匂いへと変化する。それは、あの森羅万象のエッセンスを凝縮した「美酒」の醸し出す「薫香」のようでもありました。
 花は咲き、やがて枯れゆく収穫を迎える。果実は実り、やがて死にゆく熟成を進める。大地の香りが見える。海の薫りが聞える。その「香気」に魅了され、その「薫香」に酔い痴れた私は、桃源郷が近いことを「予感」したのです。
 私は「水路」に沿って歩みを速めました。「水路」はしだいに「壁」から離別して、私を左方向に誘導している。パラパラと真紅のバラの「花弁」が落ちてくる。見上げると、生い茂るバラの大輪で造られた「門」が、私に覆い被さるようにして視えたのです。
 「時間」が刻々と過ぎている。「世界」は激変を欲望している。何が起こっても不思議ではない。不思議という「言葉」自体の輪郭が消えている。「意味」を失っている。
 私は「門」を潜り抜けたようでした。足元のネットリとした「水」の感触が、そのことを報せてくれたのです。「濃霧」が晴れる。私の「予感」は見事に裏切られる。巨大な白亜の建物の「屋上」のプールが、私の「視界」に再び現れたのです。
 プールの「水面」では、あの「月影」も「波紋」も消えて無くなっている。そして、悲しみの「旋律」が静かに響いている。苦しみの「小舟」が厳かに浮かんでいる。それは、誰かの脱ぎ捨てた「衣服」、何かの「死体」のようにも視えたのです。三匹のバーミリオン色をした「大蛇」が横たわる。その息絶えた「姿」が目の奥に現れたのです。
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# by artbears | 2014-10-31 19:50 | 連白

決壊する狂気又は洪水への恐怖、翡翠の玉座の上の純白の花束、脳内に浮かぶ二つの月

 様々な「色彩」が、私の周りをクルクルと旋回し始めたのです。それらの「色彩」が、私を取り囲む。見覚えのある「顔」となって、私を吟味する。見覚えのない「顔」となって、私を威嚇する。あの「階段」で擦れ違った「恐怖」に慄く人々の「顔」が、私の周囲を走馬灯となって回転し始めたのです。私の「意識」の前を通り過ぎたのです。
 「意識」についての「認識」が浮かび上がってくる。私はクラクラと「眩暈」を覚える。その「入口」を入ると、空っぽの白濁した「空間」がある。そこには「壁」がない。「私」もいない。曖昧な周辺部と明確な中心部からなる、まるで「概念」のような抽象的な「空間」が浮かんでいる。私自身を忘れられない「苦悩」だけが漂っている。
 「狂気」が「扉」の向こうでザワザワと騒がしい。指揮官が不在の統率の執れない「軍隊」が招集されている。「扉」は開放されるか、破壊されるかのどちらかの「運命」にある。黒いトンネルのような「鍵穴」は視えているのだが、鉄製の錆び付いた旧来の「鍵」が時代遅れであることは間違いない。「洪水」が決壊を招く前に逃げなければいけない。「歴史」が終わったとしても、この迫りくる「狂気」は決して逆流はしない。
 「座席」には、確かに白いエンベロープが置かれていました。それは、私の「記憶」のなかで咲いているホワイトリリー、エメラルド色に光る翡翠で造られた「玉座」には、美しい純白の「花束」が置かれていたのです。何という清らかな「芳香」、何という安らぎの「旋律」、私の「身体」の至るところから吹き込んでくる、その「微風」のような心地良さに満たされた私は、束の間の忘我の「時間」を過ごしたのです。
 気が付くと、「危機」はどこかに行ってしまっていました。その代償として、あの純白の「花束」もどこかに消えてしまったのです。失われた「時間」の不可逆性への「感情」が、私の「内部」で増水する。その喪失の「感情」に、私は溺れたのです。
 手掛かりは「少女」の面影を追うことでした。前方にある大画面の「映像」には、すでに変化の兆しが現れていたのです。「地平」も定かでない焼野原では、太陽の「光」が気紛れなスポットライトのように射して、名もなき「雑草」を照らし出していました。「草花」が優美に揺れ動き、小さな森の「妖精」が軽やかに乱舞する。彼らの弱々しい「光」に導かれて、私が「森林」に再び辿り着いた頃合いには、「夜」の帳が降りていたのです。
 薄墨のような「空間」が独りで「呼吸」をしている。静かに息を凝らしてベンチに「手」を触れると、そこには、「少女」の温もりが「足跡」のように残されていたのです。思わず、ポッカリと空いた「夜空」を見上げる。すると、狂ったように輝く「月」に見下される。深い井戸から目撃したような「光景」に、私は狼狽してしまったのです。
 「月」の放った「矢」に、私の「目」は射抜かれたのです。稲妻が「脳内」を走り、昇龍が「天界」を駆け上がる。閉じた「目」を開くと、煌々と輝く二つの「月」が視えました。開いた「目」を再び閉じると、一つの「月」が残されていたのです。その「脳内」に現れた唯一無二の「月」の美しさに、私の「心」は奪われたのです。
 プールの「水面」では、その「月」のバーミリオン色の「影」が浮かんでいました。それは、あの巨大な白亜の建物の「屋上」での出来事でした。もう一人の「私」には、あの「階段」を駆け上がって、この「屋上」に避難するという選択肢が残されていたのです。
 プールの「水面」では、優しい「微風」が吹き抜けて、ピンク色に染まった「波紋」が拡がろうとしていました。ピーターの七色に変化する「歌声」が聴こえてくる。プールの「水面」がブルーに変化する。哀愁を帯びた「旋律」が静かに流れる。三匹のバーミリオン色をした「大蛇」が、私の「脳内」で鎌首をもたげたのです。
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# by artbears | 2014-09-28 19:12 | 連白


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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