夢博士の独白



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木霊する言葉と意味の喪失、取り留めも無い意識と思考、真実の音源又は苦悩する精神

 耳の奥の不可視の「感触」に恐る恐る手が伸びる。耳の奥の不可侵の「蝸牛」がヌルヌルと足を延ばす。蜘蛛の巣のように張られた「鼓膜」が震えて視える。その薄くて繊細なる「境膜」を破ってはいけない。真実の「音源」は、その「境界」の向こうに在るに違いない。私は四つん這いになって、手探りで「洞窟」を匍匐前進したのです。
 ある種の「伽藍堂」と呼ぶべきか、さほど大きくはない「空間」が現われて、その曖昧で茫漠とした「輪郭」が肌身に感じられたのです。その「輪郭」としての「壁」に向かって、あの甘く切ない「言葉」が投げ掛けられる。一呼吸置いて、あの暗く切ない「不安」を伴って返されてくる。同音同意の「言葉」が木霊していたのです。
 私は「言葉」の発生能力を失っていた。私は「意味」の形成能力を喪っていた。他者の「言葉」を繰り返すことだけが許されている。気晴らしの歌とお喋りはもう止めにしよう。さもなくば、悲しみの余りに「言葉」を失い、干乾びた「声」だけが残ってしまう。私は深い自己嫌悪に陥りました。一刻でも早く、一刻でも速く、この独りでに打ち震える「鼓膜」の向こう側に抜け出したかったのです。
 瞬間にではあるが、森の奥の「洞窟」から耳の奥の「洞窟」へと移動していることに気付く。それは「意識」の為せる業でした。勝手にではあるが、それは「夢」に与えられた「特権」だと解釈していることに気付く。それは「思考」の為せる業でした。目まぐるしく流転するのは「意識」なのだろうか、取り留めも無いのは「思考」なのだろうか。通り抜けた先には、美しい「庭園」が拡がっていると聞く。私は再びアリスの「寓話」に迷い込んだのです。
 「夢」の暗がりの中の黄金の昼下がり、一匹の「蝿」が蜘蛛の巣の上でもがき苦しんでいました。それは、あたかも「鼓膜」に捕らえられた「音」のようにして、無数の小さな「振動」に耐えていたのです。赤裸々に自分自身を引き裂いていたのです。その「姿」は、「苦悩」以外の何事にも喩えようがなかったのです。
 螺旋階段の途中の「踊場」には大きな「鏡」が架けられていました。死を前にした「蝿」が生を前にした「蜘蛛」を誘惑した「言葉」とは何だったのだろうか。無言の「鏡」は、その「言葉」を写したに違いないが、その「意味」するところは永遠の「謎」に包まれている。全てが「煙」に巻かれている。「鏡」は割れてしまったと言う。その「割目」を通して、苦しみの「秘儀」が始まると言う。「言葉」を巧みに操る「白兎」が、蜘蛛の巣の下を易々と潜り抜けるのが視えたのです。
 確かに、この「洞窟」を抜け出た「世界」の醜悪さも想像に難くはなかったのです。あの親密さもとうの昔に断ち切られています。だからこそ、真実の「音源」はダイヤのように輝いているはずでした。それは抽象的で、「肉体」を超越しているはずでした。
 回転するレコード盤に鋭利な「針」が落とされる。空気の「振動」が不意に始まる。やがて「空間」の隅々にまで浸透する。私の「鼓膜」は、その純粋で媚も憐みもない「音」を捉えるのです。その「音」の背後には、精神的な「苦悩」は在るが、肉体的な「苦痛」は無い。その「音源」は永遠に届かない「彼方」に存在している。
 アノニマス、その「言葉」には不吉で邪悪なイメージが付き纏わっていたのです。それは、遠くに視えた黒い「人影」のようにして現れるのです。それは、私の「内部」に視覚と聴覚を通して、私の「外部」の「世界」を齎した無名性の「他者」でした。
 私の「内部」を覗き込んで観よう。公平中立なる「観察者」に徹して見よう。そこには、複数の「音源」からなる複数のアイデンティティが存在している。私のオリジナリティなど存在しないかのようだ。そこには、同情と憐憫の「感情」は無い。虐げられ、辱められ、傷付いた者達の「精神」が在る。この「洞窟」から抜け出ることはできない。この生きる「苦悩」を、私の「外部」に追い遣ることはできない。
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by artbears | 2016-09-30 19:22 | 連白


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