夢博士の独白



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死に臨む存在と認識された時間の概念、開かれた瞳孔又は窓に映し出された記憶の原景

とにかく眠ることにしよう。私は「記憶」を手繰り寄せようとしたのです。何とか昨日までのあの「感覚」を取り戻そうと努めたのですが、疲れ切った重い「身体」は病室の白いシーツに沈むことを選んだのです。最初は明るく目を惹く「光源」が見えて、最後は長く帯状に切り裂かれた「傷口」が見えて来る、それらが、ぼんやりと「記憶」の周辺に集まろうとしていました。ところが、「左眼」の鈍い痛みを伴う違和感は、そこに陥没した「空洞」が存在しているような奇妙な「感覚」を生み、それが何か特別な未知の「個性」のように主張を始めたのです。ある「変化」が起こったに違いない。それは、終わったことを告げているのか、始まったことを告げているのか、どちらとも特定できない抽象的な「変化」を感じ取ったのは、私なのだろうか。もし私でないとしたら、私の「脳髄」、私の「神経」、それとも私を計測する「機械」なのだろうか。それが解らない。とにかく眠ることにしよう。「解答」を求められた私の「精神」は困窮して、眠りの「闇夜」に逃げ込むことを選んだのです。入院を前にした、あの「冬空」の寒々とした高潔さ、あの優雅さを失わない透明な「感覚」が、私は好きでした。なのに、この「闇夜」は、まるで降り続く黒い雨で閉ざされた「病院」のように、私を圧迫して覆い被さって来る。雨の「水滴」の付いた窓ガラスにピッタリと押し付けられた滑稽な「顔」、それが、悲痛に歪む私の「顔」だと判別できたのは、手術室へと直行するエレベーターの「扉」が、唐突にかつ厳粛に背後で開かれた「瞬間」の出来事でした。無人の「空箱」が、私を無言で催促する。もう一度恐る恐る振り返ると、窓ガラスには、私の「瞳孔」を円く切り取ったフィルムが貼り付けられている。それは蒼くて繊細で、あの「冬空」のように美しい。ああ、そうなのかと、私は無言で納得する。これが、あの冷静沈着な「医者」から説明を受けたフィルムであり、4本のドリルの「穴」は、このフィルムを貫いて空けられるに違いなかったのです。しかし、この他人の「瞳孔」のように無防備に開いた「窓」は、私を魅了して止みませんでした。なぜならば、その「窓」の奥の「網膜」のスクリーンには、蒼い「空」と碧い「海」が拡がり、半円を描きながら続く「海岸」が映し出されていたからです。そして、その「曲線」は、まるで半月のエッジのように危うく、「狂気」の刃物のように視えたのです。それは、いつかどこかで観た「記憶」に眠る懐かしい「風景」でもありました。「海岸」で無邪気に遊ぶ子供たちの背後には、いつも「死神」が立っていたのです。我々の「存在」は、いつも不条理性、偶然性に曝されているのです。暫くすると、断崖のエッジを走る「細道」を、4台の黒い自転車が一列縦隊になって近付いて来るのが視えました。それにつれて、ドリルの回転する刃先が近付いて来るのが聞えたのです。私はまな板の上の「魚」、どろんとした「目」に見詰められている。交換不可能な一回性の「死」が、確実なものとして「視野」に入って来たのです。生きている「身体」には、決して追い越すことのできない「存在」の最後の可能性が現れて来たのです。と同時に、私にとっての根源的な「時間」が、死に臨む「存在」である自己を「認識」することによって、立ち現われて来たのです。それは、過去から現在を経て未来へと均質的に無限に続く、「死」を隠蔽した、死への「不安」を疎外している「時間」とは全く異なるものでした。それは、私にとっての掛け換えのない、狂おしいほど切実な「概念」だったのです。強制的に開かれた「左眼」を通して、「麻酔」が既に注入されていました。私の「感覚」が無い。私の一部が「物」となって、私から離れて行くのが分かる。それは、まるで途中で停止された「思考」のようだった。代わりに、無人の黒い自転車が近付いて来るのが視える。ペダルが機械の正確さで回っている。ドリルが機械の冷酷さで回っている。これらは恐らく、私の「死」とは無縁に回り続けるに違いない。永遠の「太陽」が容赦ない裁きのように「存在」を照らし出している。自分の「人生」を振り返るには完璧な「瞬間」が訪れようとしていたのです。逃げも隠れもできない。そもそも引き戻すことができない。断崖のエッジを走る「細道」に立った私は、4台の黒い自転車が、私の「身体」を次々に通り抜けることを、息を凝らして待つことにしたのです。
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by artbears | 2013-12-31 18:02 | 哲学


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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