夢博士の独白



<   2012年 03月 ( 1 )   > この月の画像一覧


水平に拡大する湖水と垂直に伸張する草木、山水に描かれた冬山、消えた春霞と鳥の声

その障壁画は、四方四季の「原則」に従って描かれていたことは明らかでした。そのことよりも、この「夜」が明らかになることを覚えないほどの「春眠」の中にあって、この「原則」が貫かれていたこと自体が、目が覚めるほどの驚きの原因でもあったのです。黄金色に輝く「客間」の四方の襖障子には、左から右へと四季の移り変わりの「情景」が、時の流れが分節された「記号」として表されていました。西方には、秋から冬への季節の下り坂の様子が、そして東方には、春から夏への季節の上り坂の様子が描かれ、北方である正面には、深々と積もる雪をかぶった「松林」が左側に、着々と開花の準備を進める「梅林」が右側に描かれていたのです。私は、依然として「春眠」の心地良さからも、「紅梅」の甘く切ない匂いからも立ち去り難くまどろんでいました。私は、夢のような「襖絵」と絵のような「春眠」の間を行き来していたのです。暫くすると、春の訪れを待つ「茅屋」から、遥か彼方の雄大なる「冬山」を眺める「視線」に、私自身の「意識」が在ることに気付きました。私は、この障壁画の「世界」に身も心も溶け入ることになったのです。私の「視線」は、極北の美とも呼べる「冬山」の稜線をなぞりながら、さらに里山を流れる雪解けの「小川」を追い駆けて、さらに平原の「春草」の息吹を愛でながら、視ることの至福の快楽に浸ることになったのです。やがて私の「意識」は、なだらかな丘陵地帯の麓に在って豊かな水量を湛える「湖水」へと流れ込みました。この水平を保ちながら拡大する「湖面」は、私の「視線」に異質の感触を呼び起こすことになったのです。それは、「液体」の物理的特性に根ざした流動化する「感覚」であり、湖水という現実的な「制約」を受け入れることによって、その枠内における一定の「自由」が担保される「関係」が感知されたのです。そこには、ある種の「秩序」が形成されていたのです。さらに私の「意識」は、湖水の上方にたゆたう気体化した物質である「春霞」へと惹き寄せられました。それは、遠くにあって裸身をさらすように聳える「冬山」を、そして、その裾野にあって周囲を写し映える「湖水」を、うっすらと覆い隠すようにたなびいていたのです。そこには、あの「牧谿」の山水画に描かれた幾層もからなる「空気」が漂っていたのです。それは、まさに気韻生動の「世界」でした。私は、この春のどこか中途半端な居心地の良さに耽溺し、春の訪れを告げる「足音」に耳をそばだてることにしました。すると、「春暁」の寒さを感じさせない眠りの彼方から、「小鳥」のさえずる声が聴こえて来たのです。その小鳥たちの何とも言えない清らかで朗らかな、純粋性の結晶のような「啼鳴」に聴き惚れていた私は、私の「意識」が私の脳内の別の「空間」に移動したことに気付きました。私の「神経」は私の「耳」に、まるで植物の根が張るようにして集中して、やがて私の「耳」は、あらゆる些細な「物音」をも聴き逃さない音響の「器」と化したのです。私の「意識」は、その巨大な巻貝のような「空洞」に移動したのです。そして、梅と桃と桜のほころびを同時に報せることになった「東風」は、最初にはソヨと吹いていたのですが、次第に風速を強めて、最後には春一番の「暴風」となって「空洞」の内部で吹き荒れました。もちろん、あの小鳥たちの「啼鳴」も吹き飛ばされたことは言うまでもありません。そして音の「洪水」は、あらゆる既視の「情景」をも消し去ったのです。しかし、艶やかに光り輝く「巻貝」のピンク色をした「内壁」の肉惑的な美しさに魅了された私は、無音の「世界」に再び足を踏み入れたことに気付かなかったのです。真っ赤な「寒椿」は音も無く落首して、その下には、真っ白の「白梅」の花びらの「絨緞」が敷き詰められていました。そこには、まるで死の「儀式」が執り行われた「場所」のような厳かな「空気」が漂っていたのです。すると今度は、「死」と「生」が季節の如くに回転するかのように、様々な「草木」が、死の「絨緞」を突き破って、刻々と垂直に伸張する様子が感知されたのです。死の「屍」の上にこそ、生の「再生」は約束されているのです。それも、まさに気韻生動の「世界」でした。私は思わず、「春眠」を妨げる勢いで拡大する不吉な「気配」を察して、その象徴である「曇天」を見上げました。するとそこには、生への「執着」が、張り巡らされたネットのように視える「枝木」と、それらの「基幹」の上にあって、実在する不在の「空巣」の中途半端な「存在」の様子が視えたのです。もちろん、あの「春霞」が消え去っていたことは言うまでもなかったのです。
d0078609_20333322.jpg

[PR]
by artbears | 2012-03-31 20:33 | 絵画


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
カテゴリ
以前の記事
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
検索
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧