夢博士の独白



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腐敗する葡萄と熟成する葡萄、カウンターに置かれた三杯のワイン、天駆ける紫色の駿馬

二日酔いを経験したことのなかった私は、この激しさを増す「咳」の度合いに応じて強まる「頭痛」に対して、成す術も無くお手上げの状態だったのです。それはまるで、脳髄の「聖堂」における不意を突く「稲妻」のように、肺胞の「聖壇」における君臨する「暴君」のように、傍若無人の振る舞いで、私を苦しめ続けたのです。時折、吐き出される「痰」の中には、「血痕」こそ含まれてはいなかったものの、黄土色に濁ったその粘着性の「物体」は、私の「内部」で進行している異常な「事態」を告げるには十分な不気味さを宿していたのです。そして、階段を踏み外さないようにと気を配りながら下りる私を嘲るように、時に脳髄の「稲妻」は天井に描かれた「白龍」に変じ、時に肺胞の「暴君」は壁面に描かれた「日虎」と化し、私は彼等の「目」から一刻も速く逃れたい一心で、階段を転がるようにして下り、「四条」の雑踏の中に紛れ込んだのです。すると、「白龍」は粉雪となって「天空」に舞い上がり、「白虎」は疾風となって「大地」に消え失せたのです。しかし、「冷気」は相変わらず執拗に私を追い続け、私のか弱い気管支の小枝の隙間に容赦なく吹き荒れたのです。やっとの思いで辿り着いたのは、パリの街角に在るような古ぼけた白壁の「建物」でした。その「入口」の両側には、犬歯を剥き出しにして、金色と銀色の「目」を輝かせた小悪魔達のポートレイトが無造作に貼られていました。街角に立つ何人かの男娼達の「目」が一斉に輝いたのも、その時だったのです。風雲急を告げる「気配」が、辺りを一瞬に支配したのです。そのこともあって、あなたとの待ち合わせの「場所」に間違いないことを確認した私は、勇気を出して、今度は階段を一歩一歩慎重に上がって行くことにしたのです。「外界」では、粉雪が止み、紫色の雨が激しく降り出したようです。なぜならば、私が階段を一段上がるのを待つようにして、その紫色の「液体」は階段を一段一段と浸して行ったからなのです。階段の両壁には、丸く角のとれた「川石」が一つひとつ丁寧に積み上げられていました。そして、紫色の「気配」は、私を掴み取ろうとする「影」となって、白く素朴で無垢な「川石」を一つひとつ紫色に染め上げて行ったのです。「死」はこのようにして、私に近付いて来ているに違いありません。しかし、私が「平静」を保つことが出来たのは、残る十数段の階段を昇り切る「体力」さえ温存すれば、例え重厚な木製の「扉」がどんなに重くとも、その「扉」の向こうに在るはずのカウンターの端には、必ず一つの「空席」が私を待ってくれていることを信じていたからなのです。そう想うと不思議なことに、「世界」は一変し、紫色に変色したはずの「川石」は、たわわに実った艶やかな「葡萄」の房へと変身を遂げていたのです。そして、「扉」の手前の「小窓」を覗き込むと、そこには木製のワインセラーが置かれていました。私の知り得ぬさまざまな「時間」と「空間」が、それぞれのボトルに閉じ込められ、濃縮され発酵し、「偶然」と「必然」との結晶としての「熟成」への「歴史」を孤独に生きていたのです。まさにアートと呼ぶに相応しい「百薬」の長が、そこに眠っていたのです。気が付くと、私は部屋の「内部」に案内されていました。気が付くと、私は無数の「葡萄」に囲まれていたのです。私はそこが、私の「聖堂」を象徴している「空間」であり、この健康な肺胞のようにも観える「葡萄」こそが、私の「聖壇」への御供え物のように視えたのです。こうして、私は私の「内部」からの蘇生を「自覚」することが出来たのです。楢材で造られたカウンターの上には、一番奥のあなたの前に三杯のグラスが置かれ、そして私が座るべき「空席」の前にも、やはり三杯のグラスが用意されていました。それぞれのグラスには、それぞれの魅惑的なルビー色の「液体」が注がれたのです。一杯目のブルゴーニュ産のワインからは、まるで「栗毛」の古馬のように実直で慎み深く堅牢な「躯体」を感じ取ることが出来ました。次に、二杯目のボルドー産のワインからは、まるで「青鹿毛」の駿馬のように威風堂々とした押しの強さはあるのですが、どこか神経質な「気質」が現れているように想えたのです。最後に、三杯目のカルフォルニア産のワインからは、まるで「芦毛」の白馬のように単純明快な視覚的な美しさは備えているのですが、なぜか人工物の持つ「作意」が後味として残ったのです。そして、隣に座ったあなたの「横顔」を覗き込むと、そこには「選択」の迷いはなく、黒紫色をした駿馬に跨って天を駆ける「笑顔」がこぼれていたのです。
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by artbears | 2011-01-31 20:01 | 共白


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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