夢博士の独白



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脱ぎ捨てられた美しい豹皮、海辺に残された小さな足跡、怒涛の如く打寄せる音塊の大波

私の眼前に立ち塞がる、この巨大な「壁」をいったい何と呼べば良かったのかと、盲目のジプシーギタリストでもあった私は、この堅牢な「壁」を何度も両の手で確めるように伝い歩きしながら、考えを廻らせていたのです。恐らく小口積みをした赤褐色の焼成煉瓦の割れ口からは、土中の鉄分が表面に結晶化して鋭利な「刃物」となって突起し、それらが情け容赦なく、私の十本の指先を傷付けていたのです。そして、その指先から滴り落ちる「鮮血」の痛ましさだけが、容易に想像できる「現実」だったのです。私は、指先に集中した鋭敏な「触覚」が感知し、この波状的に襲って来る「痛覚」が、私の唯一の外界に開かれた「感覚」であることを思うと、ただただ悲しく哀れな自己を想う憐憫の「感情」に浸るしか無かったのです。つまり私は、巨大な「壁」に行く手を遮られ、まるで「蟹」のように手探りで横歩きしながら、瞬間と瞬間を並列的に繋ぎ止めながら流れて行く断片的な「現在」にすがり付いて生きていたのです。しかし、私の希求して来た「現在」とは、「過去」の選択や経験に対する知覚や認識が「未来」への投げ掛けへの滋養となり、そうした成熟への「過程」としての時間軸の中に位置付けられるべきものだったのです。私は正攻法で、この巨大な「壁」を克服することを諦め、その無力感を慰める目的もあって、私の愛用の六弦ギターを爪弾くことにしたのです。レフトハンドであった私の握り締めたネックは真っ赤に血に染まり、血は弦に絡みつくように伝わって流れていたに違いありません。長い鎮魂の「無音」の時間が経ちました。その時のことでした。その沈黙の空間に「鉄斧」が振り下ろされるようにして、突然、「ブチッ」という鈍い音と共に「聴覚」の「窓」が開かれたのです。次に蘇えって来た「感覚」は「視覚」であり、第一弦と第二弦は切れて、その「傷口」からは「血液」が吹き出している様子が目に飛び込んで来ました。そして、第三、第四、第五弦と次々に切断されるに従って、私の「嗅覚」「味覚」そして「触覚」の大部分の「感覚」が再生を果たしたのです。私は、大量の「血液」の流出と引換えに、失われたほとんどの「感覚」を取り戻すことが出来たのです。そして、最後の一本となった第六弦の柔軟で太く逞しい「張力」の在り方を眺めていると、ほのかに「壁」の向こうの「世界」が予知現象として脳裏に浮び上がって来るように想われたのです。これを第六感と呼ぶのでしょうか。そしてもしかしたら、この巨大な「壁」は、私の「心」の中に築かれた「構造物」なのではないかとも想ったのです。乗越えることでなく、迂回することを選んだ私は、だんだんと「壁」は想像していたほど高くないことに気付き、所々に煉瓦の欠落した部分があることを探し当てました。一つの「窓」から覗き込むと、深まり行く秋の「気配」は一陣の「突風」となり、来るべき「変化」の兆しを予告するかのように吹き去って行きました。しなやかな肢体を誇らしげに魅せながら現れた二頭の「豹」は、厳しい冬の訪れに「決意」を改たにしたのでしょうか、より一層華麗に「変身」を遂げていたのです。私は、小さな「成功」を頭に思い浮べながら、次の「窓」を覗き込みました。すると、鮮やかに「豹変」を果たした証拠でもある美しい「豹皮」が、波打寄せる「海辺」に惜しげもなく脱ぎ捨てられていたのです。そして砂浜には、小さくて可愛らしい二足歩行の「足跡」が点々と沖合に向って続いていました。しかし、それらの「足跡」は決して波に消し去られることのない、しっかりとした歩みのように見受けられたのです。私は、大きな「希望」を心に想い抱きながら、次の「窓」を覗き込みました。すると、波間に漂う一羽の優雅で気品のある「白鳥」の姿が、私を限りなく魅了することになったのです。そして、この一連の断片的ではある「光景」の流れに「意味」を与えるとするならば、「困窮」の果てには必ず「事態」の変化があり、自らの「変化」の先には必ず新しい「活路」が開かれるということだと思ったのです。そんな時のことでした。私のギターの第六弦が激しく共鳴を開始したのです。そして、地響きにも似た大音量のピアノの響が音塊となって、私と私の築いた「壁」を波状的に襲って来たのです。「壁」の向こうの「世界」では、「拍手」が鳴り止まない「事態」が起こっていました。「壁」の存在はいつの間にか「視界」から消え、私は人々の集合的無意識(第六感)と合体して、「感動」の坩堝の中に自己を見失ったのです。「白鳥」の翼は、怒涛の如く打寄せるピアノの音塊の「大波」と一体となって、大きく羽ばたいたのでした。
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by artbears | 2010-10-31 18:28 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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