夢博士の独白



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存在しなかった惑星、存在したはずの水没した山野、遺伝子のように淘汰された社会規範

私たちを驚かせたのは、水墨画のような古色奥ゆかしいモノトーンの世界が突然、眼前に拡がったということではなかったのです。むしろ、その世界を、より神話的な美しさに変換して映し出しているエメラルド色の「湖面」の清らかさにあったのです。そして、その「湖畔」には、きっと「初秋」になると、雨後の薄くけぶった「しっとり」とした「大気」に包まれるようにして、真紅の曼珠沙華が狂ったように咲き乱れるのでした。自らの表象意欲を消し去り、ただ「静寂」という「言葉」のみに呼応するかのように視える「水面」には、時折、「春風」が吹き抜け、そのフラクタルな波紋が次々と生み出されて行く様子は、まるでモーツアルトの音楽のような嫌味の無い、心地良さを、私たちの網膜に光波の旋律となって伝えてくれるのです。その波紋を無邪気に追いかけるようにして形成される白メダカの群遊する様子は、かつて、この社会の隅々にまで浸透した純粋無垢なる「精神世界」が、決して緊張を強いるものではなく、実は、いかにのどかで穏やかなものであり、「実体性」に根拠が置かれていたものであったかを象徴的に語っていたのです。白メダカの群れが目指す方向に自然に目が惹かれた私は、そこには、同じような個体数の茶メダカ、それよりも少ない青メダカ、さらに少ない黒メダカの群れを確認することが出来ました。つまり、メダカの「集団」を、メダカの「色」を決定する4色素胞(白、黄、紅、黒)の遺伝子上の「情報」の「分散」という観点から眺めたならば、この「集団」には、この「社会」に固有の、しかも一定の統計学上の蓋然性に基礎付けられた「調和」が存在していることが観て取れたのです。そこには、個体間の争いしか含意しない「生存競争」という「言葉」とは無縁の、お互いがお互いを支え合った、「和」を以って貴しと為すとした「秩序」が存在していることが観て取れたのです。しかし一方では、「色」の違いという表現形質の「多様性」」の裏には、「個」としてではなく「種」としての、来たるべき「環境」との存亡を賭けた闘いへの遺伝子戦略が、したたかに準備されていることも見逃してはいけないことなのです。斯の如く、この世界のあらゆる生物は、生存が許される「環境」が続く限り、「変化」に臨むことは回避され、保守的で協調的であろうとするのですが、一旦、生存が危惧される「環境」が到来したならば、システムとしての「種」の存続に向けた、あらゆるプログラムの可能性が試みられるように設計されているのです。それは、「社会」においても同じはずなのです。私たちは、この喪失したものへの郷愁と懐古の情を掻き立てる「原景」を眺めながら、私たちの「社会」の行く末を案じていたのです。すると、私たちを再び驚かせたのは、兎追いしかの山・小鮒釣りしかの川と「童謡」に歌われた、あのメダカの生息した故郷の「山野」が水底に見え隠れしていたことでした。そして、水没して荒れ放題となったかつての「美田」の面影は、まるで亡霊のように、水中で宙吊りにされて揺らいでいたのです。私たちを更に驚かせたのは、水没した「家屋」の周辺を緑色に光りながら虚ろに泳ぐ、GFP・遺伝子を組み込んで創られた蛍光メダカの、何とも不自然な悲しみを帯びた「姿」でした。その突然変異のメカニズムからも逸脱した、まさに「神」をも冒涜した人工的な「異景」は、無制限の自由と個人主義的な無秩序によるホワイトノイズの世界の「現景」を映し出していたのです。「社会」もまた、「生命」と同じように「死滅」というカオスの淵にあって、フラクタルな「秩序」を形成しながら「進歩」、願わくば「進化」の歩みを止めるわけにはいかなかったのです。つまり、現在の「社会」において、「生命」における「遺伝子」に相当する「社会規範」が、「弱肉強食」、「優勝劣敗」といった「言葉」で表現される熾烈な競争的「環境」において、その「情報」としての優位性を継承(コピー)することが出来ずに、次々に淘汰の憂き目に会っているのです。私たちは再び、「神」にもすがる想いで「水面」を視つめ直しました。すると、季節は「中秋」まで幾ばくかの日数を残していたにもかかわらず、そこには、真黄の「月」の非実体的な「姿」が、フラクタルな水紋に揺らぎながら映し出されていたのです。しかし、そこにはもはや、あの餅つき兎も三月兎も、そして狂人と月の物語すらも、忘れ去られるべき「情報」として「記憶」のファイルから消されようとしていたのです。そしてかつて、羨望の眼差しで仰ぎ見た理想の「惑星」も、もはや存在しなかったものとして、永遠にこの「水面」には映ることはなかったのです。
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by artbears | 2010-07-29 19:14 | 社会


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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