夢博士の独白



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地球に墜ちた男、又は宇宙は一つであると信じた女、別世界に生きる火星からの蜘蛛たち

ママが一つの部屋を覗いた時に、彼(Iggy Pop)は床にばら撒かれたガラスの破片の上で、血みどろになっていた。でも、彼女は息をしていたと、私は認識したのです。同じママが同じ部屋を覗いた時に、彼(Ziggy Stardust)はシガレットに手を伸ばして、口元に引き寄せようとしていた。彼女の細く長い指先は、次々にシガレットを求めていた。そして叫び声は壁から壁へと響き渡り、彼はロックン・ロールの自殺者と呼ばれるようになったと、私は認識したのです。この彼らが生きている存在であると同時に死んでいる存在でもあり得るという世界の不確定性は、実は巧妙なトリックの舞台裏となっていて、「Ziggy」がこの地球から「フワッ」と宇宙へ飛び出して、月世界からのスペース・インベーダーとして白昼夢に現れたり、銀河系から飛来したスターマンとなって、学校帰りの私たちを空中で待ち受けていた秘密でもあったのです。彼の手口はいつもこうでした。つまり、「生」と「死」という相反する「認識」のどちらか一方が「真理」というわけではなく、この世界は量子力学的には「認識」の数だけ「解釈」が成立つ、多くの世界が綺羅星の如くに輝いては消滅する世界の寄せ集めなのかも知れないとしたのです。そして、地球に墜ちた男(宇宙人)としてのストーリー(別世界)を生きることも可能だと思い付いたに違いないのです。少なくとも、あの時(1972年)の私には、彼の奇抜で奇想天外な言動には、私の認識世界を超えたもう一つの世界を掴み取ったという自信を感じ取ることが出来たのです。私が「Ziggy」に初めて出会ったのは、LondonのRegent Streetから少し奥まった所(#23 Heddon Street)に掲げてある「K.WEST」という看板の下で、ギターを腰の所に当てがった、この世の者とは想えない粋で鯔背な「容姿」を視た時のことでした。古びた煉瓦造りの建物の入口には、数個の段ボール箱と透明のプラスチック製のゴミ袋が無造作に置かれていて、その中には得体の知れない「物質」が視えていたのです。私は、これらの「物体」には、彼の宇宙(別世界)からの引越しの「荷物」が詰め込まれていたに違いないと想ったのです。そして、もはや地球の何処にも引き取り手の無いであろう、これらの過去の「記憶」が閉じ込められた段ボール箱の一つから、彼は、あの「素敵」な海碧色のコスチュームと紫色のブーツを選び出して、新しい世界(グラム・ロック)の創出への決意を固めたに違いなかったのです。LPジャケットを裏返すと、赤いテレフォン・ブースの中には、宇宙船からの眩いばかりの光の「粒子」が、彼の黄金色に輝くヘヤーに降り注いでいる様子が視て取れました。そして私は、「The Spiders from Mars」の奏でるサウンドに惹き寄せられて、何度も何度もこの宇宙船(アルバム)に乗り込むことになったのです。火星からの蜘蛛たちの演奏は、何時も何時も「Five Years」から開始されたのです。彼の警告はいつもこうでした。私達には今の5年間しか残されていない、そしてその気持ちで次の5年間を真剣に生きよう、それでも最後の5年間は必ず訪れて来る、でもその時、この世界はきっと違って視えて来ているはずだと言うのです。すると不思議なことに、彼の歌の中の「電話」や「オペラ・ハウス」や「大好きなメロディ」が、私にとっても心を揺さ振る特別の「音声」として新鮮に聴こえて来たのです。同じように、彼の歌の中の「オモチャ」や「アイロン」や「テレビ」が、私にとってもどうしようもなく愛おしくなる「物体」として新鮮に視えて来たのです。私は、「Lady Stardust」が語るマクロの世界(宇宙)は一つであるという説に同意します。でも、ミクロの世界に存在する一つひとつの「音声」や「物体」にも、夫々の「認識」のされようによる様々な「記憶」の領域が拡がり、それらが主観的な「意味」を形成している多元的な世界が存在するのではないかと考えたのです。そして大切なことは、私にとっての「意味」のある「世界」を選び取って、そこに生きる決意を固めることだと考えたのです。38年経った今、私の机の上に置かれたCDジャケットの中の「Ziggy」は、だんだんと遠ざかって行く小さな存在のように視えるのです。しかし、彼の紫色のブーツが踏み付けた段ボール箱は、未だに開かれることはなく、これからも永遠に開かれることもなく、私という人間の一部となって、私の内部に積み重ねられているのです。そして、いつかそれらの「宝箱」が一つひとつ開かれる時が来たならば、それらは「思い出」となって、私の「人生」に固有の「意味」を与えるのです。
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by artbears | 2010-04-28 19:38 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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