夢博士の独白



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荒れ果てた大地に積もる雪、一本の伸びる線となった足跡、その先の夢遊病者の軍隊と影

「Sanctuary!(聖域だ)」或いは「Compassion!(憐れみを)」と叫ぶ声が、白く退色した無数の切株が残された荒れ果てた大地の地平線の彼方から、白く立ち込めた硝煙の臭いを乗せた風とともに聞こえて来たのです。私は思わず、次の戦闘態勢に備えるべく、指揮官の命令を聞き逃さないようにと身構えたのです。しかし、この宿命の「敵」が掘ったと思われる「塹壕」は、あまりにシンプルで前近代的であり、足元の寒さで氷結した水溜りは、永遠の過去を映した鏡のようであり、風と雨がその上に歴史の爪跡を残しているように視えたのです。そして、私が両手で握り締めている「弓矢」もまた、とても現代の情報技術で攻撃力を高めた「武器」とは渡り合えない代物であったことも、受け入れざるを得ない「現実」だったのです。退却するには遅すぎることが判っていた私は、そもそも何処に引き返すことが出来るのだろうかと自問しながら、天を仰ぎ見たのでした。すると、状況の悪化を象徴するかのように、雲は慌ただしく凍て付いた月を覆い隠すように移動し、月光で蒼白く冴え渡った空からは、水蒸気がゆっくりと固体化して出来る「六花結晶」が、粉雪となって舞い降りて来ているように視えたのです。しかし、その空に咲く白い花のような「物体」を、双眼鏡で拡大して観察してみると、六人の落下傘兵が両手を繋ぎ合って輪を作り、まるで分子が規則正しく並んで結晶化しているかのように、個々人は固く結ばれ、小集団が強く意志統一を図っている様子が視て取れたのです。その時、パラシュートが美しく開くことを夢見ていた私に冷水を浴びせたのは、頭脳に埋め込まれたチップから発せられた「Follow Me!(突撃)」の電子音による合図だったのです。いったい誰に続けと言うのか、という根源的な問い掛けを残したまま、率先垂範して「塹壕」から飛び出した私は、案の定、鋭利な矛先の「矢」に貫かれたのでした。冷たい戦争とそれがもたらした領土の自然的拡大という「過去」のレジームが崩壊した「現在」において、新しい領土・「未来」の獲得には、「他者」による「死」を受け入れることも、一つの「Probability(蓋然性)」として起り得たのです。白い雪の絨毯にうつ伏せになった私が、私自身の真っ赤な血液の「海」に浸されていることに気付いたのは、私を貫いた「矢」の先端の部分に止まった「烏」が、バランスを取ろうとして大きく両翼を拡げたからでした。黒い翼が月光を遮り、肉をえぐるような痛みが私を襲い、「矢」が倒れるスピードに合わせて、私の意識は再び消えて行ったのです。暫くして、荒れ果てた大地の向こうの「戦場」で、両腕を立てて起き上がった私の眼下には、あの真っ赤な「海」は消え去っていました。私は、この「戦場」を全力で駆け抜けることにしたのです。教会の重厚な「扉」には、何本もの「矢」が突き刺さり、教会の内部が伽藍堂であることが判りました。鉄橋は崩れ落ち、自動車は錆びて朽ち果てていたのです。電気の消えた工場の「窓」には、やはり何本もの「矢」が突き刺さり、「物」の生産の秩序が失われていることが判りました。「物」は略奪され、「物」への欲望までもが消え失せ、私有財産権の履行を守るシステムとしての「資本主義」が、次の統治システムへの未明の地平を前にして崩壊しているのです。戦うべき戦線が移動しつつあることを知った私は、巨大な最後の「塹壕」を乗越えるべく「突撃」を敢行したのです。しかし、境界に立った私は、見覚えのある風景が全く見当たらない環境を前にして、「二の足」を踏まざるを得なかったのです。ドゥルースの言う「脱領土化した世界」が拡がっていたのです。「国家」や「肉体」と言った秩序形成の「主体」すらも、情報化され相対化され、気体分子化された状態で漂っているのです。硬直した「秩序」を更新する新たな「戦争」が始まっているのです。自ら武装解除した私は、自らの歩んだ道を振返る目的もあり、後方の荒れ果てた大地を見渡しました。そこには一本の伸びる線となった私の孤独な「足跡」が続いていたのです。その先には、月光に照り出された「影」が、夜の舞踏家の踊りのように揺らいでいたのです。夢遊病者の「軍隊」が正確無比な歩調で、白い闇に向って「死」の行進を開始していたのです。その時の事でした。「軍隊」に合流すべきかと再び「二の足」を踏んでいた私の頭上で、白い落下傘がまるで巨大な花が咲くように開いたのです。帰属すべき「共同体」は存在するのか、それとも単なる「The Undercover Man(まわし者)」なのか、私の「混乱」は続くのでした。
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by artbears | 2009-09-23 17:42 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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