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夢博士の独白



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紺碧の空と白い灯台、海峡を隔てた対岸の黒い灯台、海底に沈んだ軍艦に流れる音楽

そもそも私は、一体全体どこに居たのだろうかと考え込んでしまったのです。悪夢の最中に居たのか、それとも白日夢に我を忘れて居たのか。あのレストランの窓際の席からは、冬になると枝ぶりの良い黒松の小枝に積もった雪が、一定の間隔を置いて「ドサッ」と無音で落ちるのが観えたものです。季節は廻り廻って、夏の盛りとなった今、小枝を揺さ振るのは台風の前触れの風なのか、それとも未明に起きた地震の余震なのだろうか、何れにしろ、私の「心」は大きく揺さ振られていたのです。私の気紛れな「感情」は、「理性」の監視人の眼を盗んで、「悪言」となって脱獄したのです。「悲劇」は突然、このように「運命」の用意周到なプログラムに従って、まさにディオニュソス的な激しさを「舞台」として起きるのです。そして確かにニーチェの言うように、人は、この「悲劇」に遭遇して初めて、それに立ち向かう「勇気」を自覚して初めて、生きることの「意味」や「意義」を深く考える機会を与えられるのです。「運命」は「悲劇」により、愛される対象となるのです。それにしても、この「神なき時代」の私の心象風景に拡がる深淵は、なんと心細く不安と悲観に満ちたものなのでしょうか。私は、擦筆で描かれた不穏で不気味な、灰色と紫色が混ざり合ったような空に渡された一本の鋼にぶら下がっていたのです。その格好は、まるで「ナマケモノ」のように無邪気で無用心な姿でもありました。しかし、後退することは止まること以上に危険であり、止まることは前進すること以上に危険であることは、この「怠け者」にも解っていたのです。ただ、撓った綱の先には、ぼんやりとではありますが、あのラファエロの絵画に在る超現実的なウルトラマリーンの空と、その空を背景にした白い灯台の逆転した姿が像を結んでいたのです。それは、この「怠け者」にとっては、「自由」(自分自身に対して恥じないこと)への「道標」でも在り続けたのでした。一方振返って視たならば、同じように撓った綱の先には、荒波が悪夜の中で猛り狂っている海峡と、その向こうの対岸に在る黒い灯台が、今度ははっきりと確認できるのでした。それは、黒い灯台が時折放つ「業火」のような光線が、私の内部に在る醜悪で虚栄に満ちた、そして、耳元で囁く悪魔の「戯言」をいとも簡単に受け入れてしまう、私の「感情」の「牢獄」を照らし出すからに違いないのです。私は、黒い灯台(現実)から白い灯台(理想)への直線的な時間概念の中を、宙ぶらりんになって一人孤独にぶら下がって居たのです。すると突然、「悲劇」の幕は予告なしに、綱もろとも切って落とされたのです。荒波はだんだんと激しさを増して、「運命」は私を海中に呑み込むことを欲したのです。たくさんの「気泡」が無数の泡となって、私の海底への落下と引き換えに、海面へと浮上して行くのが視えたのです。その「気泡」たちの内部には、「悲劇」には付きものの「涙」が閉じ込められていました。私は、それらの無罪の「涙」が、無事に海面に達して償われることを願ったのです。綱をベルトに結びつけた私は、自由になった両手で水を掻き分けながら海底を目指しました。やがて海底からゆっくりと姿を現して来た物体は、100年以上前に沈没したと記録に残る「軍艦」だったのです。この古色蒼然とした古典的な威厳の感じられる「軍艦」の艦首には、誇りある死を選んだに違いない「軍人」たちの姿が視えたのです。彼らは、白骨の骸骨となってもまだ、自分自身を支配する力を失わずに立っていたのです。ここでは、ロマンが薫り、歴史が息づき、人々が未来に描いた夢や理想が、現実的な力や科学的な実証主義を退けていたのです。「軍艦」の内部に侵入した私は、艦内が十字架の形をした通路によって仕切られた、巨大な四つの部屋から成る構造であることを知りました。「運命」は「四夜」から成る「悲劇」を経験することを命じたのです。順番に「夜」の扉を開くと同時に、ワグナーの音楽の重々しい調べが始まりました。その音楽は、ゆっくりと私の「脳内」で拡がり、やがて「指環」の形而上学的「迷路」と私は一体となったのです。そして、歓喜や陶酔や戦慄と言った非日常的な「感情」が、私をして、この壮大なスケールの「叙事詩」の中に、新たな「生」(真に生きることの可能性)の存在を実感せしめたのです。その時のことでした。たくさんの「音符」が無音の世界に吸い込まれて行くのが視えたのです。と同時に、胸を締め付ける苦痛が始まりました。「音楽」の無い世界に生きていけない私は、最後の旋律を口ずさみながら、海面に向って浮上することを決意したのです。
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by artbears | 2009-08-31 19:45 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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