夢博士の独白



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一衣帯水の日本海、空想の中の満開の枝垂桜、脳内に再生された壮大な構想への回路

その男「Y」は、刻々と過ぎ去る無情の時間に天を仰ぎ、内心では、タクシーの運転手の信号無視を期待していたのです。そして、その女「E」は、脱兎の如くに、エスカレーターを逆方向に駆け上がり、二枚の樹皮繊維で出来た「切符」は、彼女の手の平のなかで、巣篭もりをする「子栗鼠」のように丸まっていたのです。自動改札機を通された「切符」は、「ぺらぺら」の白い半紙のサイズとなり、その中央には、「夢」と達筆で書かれた文字が現れて来たのです。「ひらひら」と半紙が床に舞い下りる寸前のところで、白い手袋がそれを拾い上げ、次々と白い手袋たちに丁重に扱われながら、最後には、黒いサングラスをかけた紳士淑女に手渡されて行くというシステムが採られているようでした。彼らの背後には、数台のエレベーターが引っ切り無しに昇降を繰返していました。そして、扉が開かれると、一枚の「夢」と書かれた半紙は、箱のなかに無造作に投げ込まれて、恐らく、エレベーターの急上昇の際に生まれる無重力の状態で、天空に向って、次々と運ばれて行く「運命」にあったのです。つまり、「夢」は決して地に落ちはしないのです。このようにして、無数の取りとめも無い「夢」が、世界のありとある「脳内」から毎夜毎夜生まれて来ては、この世に微塵の跡形を残すことなく、儚く消え去っているのです。そして、この「夢」たちが毎朝毎朝「無」へと帰するという悠久の循環構造こそが、時空を超えて、いつかどこかの「脳内」のなかに再生されるであろうという「仮説」の根拠でもあったのでした。それは正に、「方丈記」にある無常観であり、ハイデッカーの言う「現存在」の認識と、どこかで通底しているはずなのです。そう、「夢」は「夢」で、生命の循環の営みと同じように、不変の「命」を永遠なる運行の円環のなかに生きているに違いないのです。二枚の「切符」の行き先は、海を隔てた大陸の雄大な存在感が迫って来るかの気配に、日本海の荒波の潮気を乗せた風が入り混じった、異国への郷愁と畏怖が同居したような大気が支配する「場所」でした。そして、異次元の世界への大きな乗り物と命名された「寺」も、そこに存在していたのです。境内への石段の芯には、まだ冬の冷気が閉じ込められているようでした。しかし、境内の枝垂桜の蕾には、既に春の温もりが息吹いていたのです。そして、私たちを迎えてくれた黒い作務衣を着た修行僧は、全てを理解したかのような温和な微笑を口元に浮かべ、無言の内に「切符」を受け取り、あの天空に在るはずの「夢」と書かれた白い半紙を手渡してくれたのです。その「夢」と言う文字が、映像をスローモーションで逆回転するかのように、漉いた紙の繊維のなかに消えて行く様子に見惚れていた私たちが、頭をもたげると、そこには、あの「醍醐寺」の、未だ観たことのない空想のなかの枝垂桜が、満開に咲き誇っていたのでした。私たちの「夢」の一つは、バーチャルな空間のなかで実現したのでした。それは、視たいという「欲望」が、天空に存在する「夢」のデータバンクにアクセスして、ダウンロードされて来たからに違いないと想ったのです。そして今度は、ピンク色の桜花の雨が枝垂れて降り注ぐなかにあって、美しい二羽の孔雀が、大きな青藍色の飾り羽を小刻みに痙攣的に震わせながら、厳かに現れて来たのです。そのダーウィンの適者生存説では説明不可能なレベルの絢爛豪華さを前にして、私たちは、神が創り賜いし自然の奇跡的な「美」に打ちのめされたのです。この「孔雀の間」の襖を開くと、次に現れて来た空間は、「芭蕉の間」と呼ばれる部屋でした。その空間では、私たちは、芭蕉の葉で遊んだり、無心で蝶を追っている子供たちに注がれる、唐の時代の名将・「郭子儀」の愛情に満ちた視線と出会うように設計されていたのです。その視線とは、人間の「脳内」に在る、崇高な思想や高潔な人格、無垢な子供の純粋性と言った「善」なるものを直視し、それを呼び覚ます眼差しでもあったのです。そして、空間は直線的な展開を避け、L字型に屈折するように構成され、最後の空間である「山水の間」は現れて来たのです。そこには、バーチャル(脳内)な空間とリアル(現実)な空間とが、親和的で理想的な協働にある「真」の世界が描かれているように想われたのです。この「円山応挙」の壮大なる「構想」が、時空間を瞬時に超越して、私たちの「脳内」に蘇えって来たのでした。その「構想」が、大陸に向って、日本のオリジナリティを突き付ける「意図」と「強度」を秘めたものでもあったことも、「脳内」に記憶されたのでした。
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by artbears | 2009-03-30 20:56 | 絵画


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