夢博士の独白



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ランニングする影法師、透明の馬は頭部を地中に埋め、腹部には卵黄色の球を宿していた

太陽は、既に月に半分喰われていたのです。しかし、「皆既日食」という「知識」が、私を絶望的な恐怖心から隔離していることの不自然さに、驚愕の想いで立ち竦んで居たのでした。「科学」は、信仰心無き私の内部においては、完全に「神」に置換わっていたのです。そして、より現実的な危機が迫っていることを本能的に気付いていた私は、先ず、太陽の位置を確認して、その川が南から北に向って流れていることを知ったのでした。次に、トラス橋は東西に跨って架けられていることから、その橋桁上を走る数名の追跡者たちは、黒く長い影を水面に投影しながら、東から西に移動していることを知ったのでした。川の西岸の河川敷に居た私は、背丈以上に成長して茂る「葦」を掻き分けながら、対岸に渡ろうと必死にもがき苦しむのですが、河口近くの角の取れた川石は「つるつる」と滑るばかりで、私の可哀想な両足は、見る見るうちに真っ赤に膨れ上がったのでした。血の臭いを嗅ぎつけた蛭たちが、次々に集まって来る気配がしました。「ぬるぬる」とした苔が付着しているに違いない川底には、鎧兜に身を固めた武士のような古代魚が、水流に逆行しながら、独り言を呟いて居たのです。つまり、私は対岸に自力で渡ることを諦め、追手からの追跡を免れることを断念したのです。「葦」の草叢に身を潜めた私は、パスカルの「人間は、自分を圧殺するものより、崇高である」と言うパンセにある一節を、何度も何度も「念仏」のように唱えたのですが、この状況を打開するのには、あまりに時代遅れの「哲学」であることを知ったのでした。私は、考え続けました。そして、結論に達したのです。例え、この世が「暗黒の世界」に転じようとも、そのことは、確かに太陽も月も知ったことでは無く、また、「神」や「科学」に救いの手を求めても、気休め以外の何ものでも無いのです。この「葦」のような存在である私こそが、その「暗黒の世界」を引き受けるしか、選択肢は無いと考えたのでした。すると、胸から飛び出しそうになっていた私の健気な心臓は、急速に心拍数を下げて、再び元の位置に収まったことを告げたのです。私は、この忠誠心の塊のような心臓が大好きで、彼女のためにも、私は生き延びる決意であることを、私のもう一人の僕である両足に伝えようとしたのです。すると、以心伝心なのでしょうか、彼は、自然に「堤防」に向って歩みを開始していたのです。気の遠くなるような年月のなかで、度重なる河川の氾濫により、自然に出来上がったと語り継がれて来た「堤防」の背後には、ダイヤモンドリングと呼ばれる光の輪に囲まれた黒く巨大な太陽が姿を現しているに違いありません。私は、「百年に一度」と言われる、この「怪奇現象」に遭遇することになった我が身の不幸を嘆かずに、むしろ、その「別世界」の有様を、この両眼で確かめることを選んでいたのでした。「堤防」を形成している斜面を這い上がることは、想像していた以上に困難が伴うものでした。不必要なものを脱捨てて、ほとんど「裸体」になった私は、足元から崩れ去る砂と格闘しながら、やっとの想いで、「堤防」の頂にある「小道」に辿り着いたのです。「堤防」を隔てた反対側の光景は、一機に視界の拡大を強要するほどの巨大な空間でありましたが、同時に、それは、とても殺伐とした世界の拡がりでもあり、鈍い鉛色の海面に、灰色の空は重々しく覆い被さっていたのです。「皆既日食」は、「第二接触」が始まろうとしていたのです。視界は一層明るさを失い、暗灰色となった空には、永遠の暗闇が続くトンネルの入口のようにも観える黒く深い穴が「ポッカリ」と空いていたのです。ランニングする影法師は、この穴から飛び出して来た刺客に違いありません。私は、「小道」の脇の草叢に身を隠して、接近して来る影法師を遣り過ごすことにしたのです。ところが、五人の刺客は、意外なことに、私には目もくれずに過ぎ去ったのです。「大物」は他に在ったに違いありません。しかし、肩透かしを喰った私には、不意を突かれるように、唖然とする光景が待ち受けていたのです。それは、逆光の銀色の世界から次第に全貌を顕かにして来ました。光を拒絶して育って来たかのような透明の馬が、四足で大地を精一杯に踏ん張りながら、その長い首を土中に埋め込んでいたのです。透き通るような首筋には、青い静脈が土中からの還流を物語り、大きく膨らんだ腹部には、卵の黄身のようにも観える球体が内包されていたのです。その球体の周りには、赤い血管のネットが張られていて、確かに、何かの胎動の予感に充ちていたのです。
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by artbears | 2009-01-31 18:16 | 哲学


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