夢博士の独白



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真紅の落葉は暗黒の谷底に舞い下り、眠れる竜は翼を広げた鳳凰の館を襲う激流と化した

見下ろすと眩暈がするほどの深く険しい渓谷で隔てられた向こう側には、やはり同じような屋根付きの橋が架けられていて、犬や猫や鹿の仮面を被った人間たちの往来の様子は、こちら側の日常が鏡に映し出された相対称のものであるかのように営まれているのが観えるのでした。あなたは、向こう側の欄干の中央で、いつものように「ニコニコ」と微笑んでいるのですが、向って右隣りには、生えかかった二本の角が初々しい「竜」の子供が並んで立っていたのでした。疑惑の念に駆られた私が周囲を見回すと、案の定、微笑むあなたの横顔は、いつものように私の左隣りに在ったのでした。「私は年老いた鹿なの?それとも幼い竜の子供なの?」と恐る恐る発した私の質問への回答は、暫くの沈黙の末に、「時には、若々しい竜のようでもあるわ」という、谷底から発せられ、絶壁の岩々に反響する木霊となって返って来たのでした。そして、その声は、渓谷の周辺に生い茂る夥しい数の樹々を揺さ振り、厳寒の冬への決意とも読み取れる紅葉した枯葉たちは、その声の主を求めて一斉に落下を開始したのでした。真紅に染まった落葉たちが暗黒の谷底に舞い下りて行く様子は、ちょうど真っ赤な血液が「ポタポタ」と真っ黒な水面に滴り落ちて行く様子を視るように、不気味でもあり、何かの前触れを予感せざるを得ない光景だったのです。その時、幻惑の谷底の奥深くに在る漆黒の水面は、突然の変調を来たし、大きな波紋とともに乱れたのでした。谷底の眠れる「竜」が「ぐわぁん」と動いたのです。足元の人懐っこい鳩たちは、一斉に不吉な荒天に向って舞い上がって行きました。周りの中国語を話す観光客たちは、一斉に末法の到来に怯えて両手を合わせるのでした。「竜」は激竜となって、かつての平安貴族が洗練の極みとも言える文化的生活空間を創り上げた、この京都南郊の地の文化的荒廃を嘆き、再び怒りを顕にし、宇治川に合流する激流となって現れて来たのです。この風光明媚な自然も、人間の恣意的な解釈とある種の抑圧を経ずしては、文化発する地へと成り得なかったことを、そして、それを唯一可能とする芸術の根源的なパワーの所在とその意味を、「竜」は人々に知らしめるために、再び顕現して来たに違いないのです。それは、あの北斎の「龍図」にある「竜」を取り囲む白炎のように燃え滾る波濤となって、そして、その激流は護岸を決壊し、宇治川の西方に位置する平等院の池へと怒涛の如くに流れ込んだのでした。その時、私は、西方浄土に架けられた橋のように視えていた向こう側の構造物は、実は、この平等院の左右に広がる翼廊であり、東岸(現世)に在るこちら側の私は、この「竜」が潜むこととなった池を隔てて、西岸(来世)に在る私自身を視ていたことに気付いたのでした。そして、私は、無意識の暗闇とも、天上界の光悦ともどこかで繋がっているに違いない、この神秘的な水源と化した池を、縦横無尽に回遊する「竜」の姿に見惚れていたのです。それは、この世にも、あの世にも属さない、人類の財産としての特別の世界(芸術史)を創り上げて来た源の在処に他ならないと思ったからなのです。そして、次に、彷徨い続ける私の視線が惹き付けられた先は、入母屋造りの中堂のなかに鎮座している、人間の根源的な暴力性とは無縁で、とても温和で円満なお顔をした「阿弥陀如来坐像」だったのです。そのお顔の額には、真紅に輝く水晶玉が嵌め込まれていて、それは連綿と続く山脈の頂からの太陽の光を正確に受け止めて、「キラキラ」と輝く赤い光線の束からできた五線譜となって、天上からの来迎の道筋を教えていたのです。そして、26体の飛雲に乗った「雲中供養菩薩」の隊列は、その五線譜上を軽やかに移動しながら、ある者は、琴や琵琶、横笛、縦笛、笙、太鼓などの楽器を演奏しながら、また、ある者は、音楽に合わせて舞い踊りながら、天上の至福の音楽と、その音楽と一体化した舞踊を奏上したのでした。その音楽・舞踊は、一千年という時空間の存在を一瞬にして無化するほどのアクチュアルな芸術として、現代に生きる私たちの心にも鳴り響いて来たのでした。そして、色鮮やかに色彩の復活を果した菩薩たちは、中堂に吸い込まれるように次々に入り、長押上の壁に飾られた26体の浮き彫りの菩薩像と合流し、中堂を極彩色の絵画空間に変質せしめたのです。その美しさは、現代のコンピューター・グラフィックスで再現されたという映像とは、本質的に異なるものであり、芸術であることの根拠は高らかに歌われていたのです。
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by artbears | 2008-12-25 18:29 | 共白


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