夢博士の独白



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薄暗がりのなかの黒い教会、階段を降りると無数の病室があり、蝙蝠傘は立掛けてあった

私の長年愛用のこの黒い蝙蝠傘の手元が取れたことに驚くのは、まだ少し早かったようでした。なぜならば、ホンジュラス産のマホガニーの原木から削り出されてこの世に生まれ出ることになった、この暗褐色の蝙蝠の「頭部」が欲していたことは、今や色褪せた傘布と、それを張り支えて来た軸や骨からの自由であったことが判明したからなのです。だからこそ、西欧の街路を想い起こさせる、この煉瓦を敷き詰めた歩道に「コロッ」と転がり落ちた木製の蝙蝠の「頭部」は、「ニヤッ」とした微笑を浮かばせながら、何処からともなく舞い下りて来た本物の蝙蝠の「身体」と合体して、現代の教会のように聳え立つ摩天楼の最上階を目指して舞い上がって行ったのでした。そしてかつては、全ての階の全ての部屋から、煌々とした光が溢れ出ていたはずのこの建物も、なぜか今夜は寂しく、「黒い月曜日」の再来を宣告するかのように、黒々とした巨体を天に委ねるようにして佇んでいたのです。最も貧しく弱き人々を食い物にして来た「経済」と「ビジネスモデル」の崩壊が始まっているのです。地球上のあらゆる生態系のピラミッドがそうであるように、頂点に立つ最も知識・財貨に富める強者たちが、本来の持つべき高い志と強い使命感を忘れ去り、詐欺的行為も厭わぬ金銭欲に走ったならば、そして、その「グリード(貪欲)」な欲望が弱者からの収奪に向けられたならば、必ずや、そのピラミッドは底辺から崩れ去るであろうと言う、人類が歴史から学んだはずの教訓が反復されているのです。ダヴィンチの言葉(人間は、二分の一位、自分のことを知らなければならない)を借りるならば、人間は自分のことはもとより、他人のことを全く知り得ぬ「無知無能」の荒涼たる原野に放り出されてしまったのです。「金融資本主義」と言う、現世における御利益を約束した新興宗教に捕り憑かれた人々の絶叫が、黒い現代の教会の暗い絶望の階段に響き渡っているのです。最上階のスイートルームが蛻の空となったことを確認した蝙蝠の「GPO」は、急転直下して、今や現代のカタコンベと化したに違いない教会の地下室へと降りる階段の入口に着地したのです。階段の入口からは、特別に調合されたと想われる香料の薫りが漂っていました。「GPO」は、その死の世界へと誘引するかのような魅力的な薫りに引き寄せられて階段を降りて行ったのでした。階段の左右の側壁には、ガラス窓が取り付けられており、その窓から中を覗き込むと、黒く「ドロドロ」としたオイルの海面が拡がっていたのです。数段降りたガラス窓の中にも、同じような光景が観察できたのですが、唯一の違いはと言うと、その窓からは、オイルが「ベットリ」と羽に付着して飛ぶことを断念した、海鳥たちの悲痛な表情が写し出されていたのです。さらに数段下の光景を予測することは容易なことであり、そこには、オイルの海面が一段と下がり、それに反比例するかのように、もがき苦しむ動植物の数が増えるという「未来」が暗喩的に提示されているはずなのでした。そして、彼らの有機物としての「死体」が堆積されてできる海底の上昇に対して、かつての有機物の「死体」から生まれたオイルの海面の低下という「関係性」は、この二つの水平面の漸次的な距離の極小化(ミニマリズム)というかたちで、この空間を嫌が上にも死臭の漂うものにしているのでした。階段を下り終わった階にある鋼鉄製の扉の上には「集中治療室」のサインが灯っていました。その扉に付いている小窓から内部を覗き込むと、目も眩むような強烈な光線が矢となって「GPO」の眼球を貫いたのです。その光源は、今や黒い教会と化したこの建物の虚飾の美しさを、その尖塔を夜空に浮び上がらせることにより演出するという役割を果たしていたものでした。この視覚に対する過酷な刺激に順応するに従い、しだいに「集中治療室」の内部が明らかになって来ました。通路の両側には、無数の病室が並んでいて、それらの扉は半開きになっていました。そして、あの「脈打つ軟骨」を髣髴とさせるノイジーでインダストリアルな現代の呪術と呼べるサウンドが、物理的な音塊となって通路に溢れ出し、聴覚に対する容赦ない攻撃を加えるのです。「GPO」は、「膿は出されている」と直感したのです。そして各病室の入口に立掛けられている蝙蝠傘が英国の由緒ある「FOX」社製であり、それらの石突から流れ出している血液が通路を血の海にするに違いないと思ったのでした。
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by artbears | 2008-09-25 21:07 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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