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夢博士の独白



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ラスト・モダニストである抽象画家は、電脳化社会に咲くおぞましきクレマチスを幻視した。

確かにそのクレマチスは、イングリッシュ・ガーデンでよく目にするように、赤茶けた煉瓦の壁に蔦のように絡まって繁殖していたのです。そして、その蔓で他の植物や鉱物をしっかりと掴み取りながら自らを固定化している様子は、鉄線とか風車とか仙人草とかの日本名で呼ばれているこの花の風雅なイメージに反して、どこか西欧を原種の起源にもつ植物の残虐性(恐怖のカオス)のようなものを感じさせるのでした。その上、決定的であったことは、テレビのモニターに映し出されている女性の金髪と銀髪の混ざり合った髪が、ちょうど花弁のように変化したクレマチスの白い萼のように視え、顔の中央に集まった目鼻の不気味さ、取分け唇に厚く塗られた口紅の毒々しさは、正にあの「英吉利の薔薇」のように退廃的でおぞましきものに視えたのです。これは明らかに、私のクレマチスに抱いていた清楚でありながら、孤独に耐える精神性の高い花といったイメージを覆すものでありました。ところが、あなたからの「情報」によると、この「映像」のリアルな発生の「場」は、実は英国ではなく、私にとって最も日本的な「場」であるはずの京都であったと言うではありませんか。「映像」だけを視ていた私は、「言葉」の補完無しでは、もはや現実のリアリティを感得することは出来ないと実感したのでした。私の脳内において、秩序や認識の体系となる思考の基盤が「ドロドロ」と溶解するという感覚を経験することとなったのです。科学的思考により、「現象」を還元的に原理や秩序へと抽象化していく時代は終わり、情報化社会においては、脳内のリアリティが直接的に「情報」に反応し、モラルの歯止めが利かない状態で、新たな共同体(脳内ネットワーク)を求めて流出するという「現象」を生み出しているのです。私は、私の脳内においても着実に進行する、このおぞましき「現象」から目を背ける目的もあり、脳内のモニターのチャンネルを「映像」から「記憶」へと切り換えることにしたのです。そこに蘇えって来たイメージは、秩序ある安定した美しさと安らぎのあるものでした。時折、頬に心地良く当るそよ風に秋の気配を感じながらも、相変わらずの夏の容赦ない強い陽射しに辟易していた私たちは、この高原に在るプラットホームに降り立ち、仲良しの子猫たちがよくするような大きな背伸びをしたのです。どっしりとした存在感を競い合うかのように連なる山々の稜線には、ゆっくりとしたスピードで雲々が這うようにして移動して行くのが観えるのでした。私は改札を足早で通り抜け、その時に、あなたの横顔が反対側のプラットホームへと連絡する陸橋の窓の枠内に、まるでフイルムの一駒一駒のように移って行くのを確認したのです。あなたはきっと、杉の木立が真っすぐに天を突き刺すように茂る森林を目指していたに違いありません。そして、その森林の奥深くには小さな湖があり、その湖畔に在るお伽の国の山小屋で、エメラルド色の目を輝かせる猫となって、私の訪れを待っていてくれるのに違いなかったのです。一方、私は「Crank Painter」と呼ばれる画家のアトリエを訪問することになっていました。このモダニズムを体現して来た、かつては抽象絵画を描き続けて来た画家のアトリエにも、クレマチスはたくさんの具象絵画となって繁殖していたのです。絵画化されたクレマチスは、やはり日本的なフォーマリズムに則ってか、鉢植えのごく常識的な表面を装っていました。しかし、その「IREBANA」と題された絵画には、グローバルな規模で進展する電脳化社会の構造が、思考の遠近法で見事に描かれていたのです。入れ歯(老死)と生花(生命)の並列的同時対比、言葉の駄洒落による諧謔性とニヒリズム、あらゆるタブーとされた感覚のボーダーレスの状況、そして何よりもここ(絵画)には、横溢する悪意とおぞましきものが在ったのでした。私は、画家のまるで哲学者のような鋭利な思考によって描き出された、この来るべき「現実」(バーチャル・リアリティ)のおぞましさを前にして、ただただ平穏なる世界を想い描いたのでした。その時、側らに立掛けてあった「Cicada(蝉)」という絵が目に入ったのです。その絵とは、二人の裸体の男性が逆さになりながら絡み合って、蝉のように一本の樹にしがみ付いて「死刑」を待っているという「絵画」だったのです。私は、その絵のなかに在る何本もの直立した杉の木立の暗がりの向こうには、きっとあの湖への道が拓かれていると確信したのです。
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by artbears | 2008-08-31 17:59 | 絵画


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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