夢博士の独白



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蛍を視たと飛び込んで来た突然の訪問者、文鳥小屋の中の亡父の動物園に点灯した光

世界各地からの「御土産」として海を渡ってやって来た、それらの動物園の住民たちは、かつては真っ白な小鳥たちの住家であった、この「文鳥小屋」に集結することになったのです。あるものは飛行機内への持込の手荷物のなかで、また、あるものは蒸し暑い船倉の片隅で、いったい誰が、このような運命の結末を想い描いたことでしょうか。文鳥小屋は32の「個室」に分けられていました。そして、あの真っ白な小鳥たちの子孫は、雨上がりの鎮守の森の清々しい空気の拡がりのなかで、それぞれの「個室」にまつわる思い出の小箱を紐解き、それらの「記憶」は、彼らの美しい鳴き声とともに空中に放たれたのでした。頭部を赤くペイントされたためか、少し苛立った表情のベンガル虎の個室「豆電球B-4」には、やはり紅い嘴が綺麗で、ちょっとお喋りな手乗り文鳥の「フロイト」が棲んでいたはずでした。「フロイト」は常に私の耳元で囁くのでした。隣接する「牛小屋」のなかには、実は巨大な「乳房」の持ち主である、そして時々白痴のような雄叫びを上げる山羊の「エス」が棲んでいることを。そして祖父と畦道を連れ添って歩く「エス」は、時々黒真珠のような丸々とした「糞」をだらしなくボタボタと落として行くことを。そして彼らの行き先は、決まって鎮守の森の奥深くにある、かつての領主さまが参勤交代の際に水浴びをなされたという「殿の湯」であることを。謹厳実直な祖父が、どうして、謎めいた「秘所」である、そして滾々と湧く無意識の泉のような存在である「殿の湯」で、あの得体の知れない「エス」とたむろするのか。そして彼らの「密会」を、私は何度、あの「泉」の凍りつくような冷たさの感触とともに、「夢」のなかで目撃し、そのことを「フロイト」に告白したかを思い出したのです。すると間髪を入れずに、「蛍光灯A-5」の住民となった悪霊の「カーラ」が、両翼をゆっくりと動かしながら、あの無意識の領域には善(バロン)と悪(ランダ)が渾然一体となっていることを、そしてそれらを別つことがいかに無意味なことかを力説するのでした。「ベンガル虎」と「カーラ」が、あの「殿の湯」の出来事に関して、共通の見解を持っていることは明らかでした。しかし少なくとも、彼らの会話に聞き耳を立てて聴いていた私は、目の前で展開しているこの捉えどころの無い「現実」は表層的なものであり、実はそれらを超えたもう一つの「現実」が、遥かに巨大な規模で存在するという彼らの話の「内容」には、奇妙な同意と安堵の気持ちを抱いていたことも事実だったのです。そして、残りの30の「個室」にも、亡父の思い出が結晶となって、それぞれの動物に宿ることとなった、夢と記憶と無意識の動物園が現出することになったのでした。問題は、この「エロス的身体」とも呼べるドロドロの「沼地」に、いかにして理性の床「自我」を基礎付けるのか、いかにして規範の柱「超自我」を起立させるのかにあったと、今や赤ら顔のベンガル虎に化身した「フロイト」は説いていたはずなのです。そうした意味では、文鳥小屋や牛小屋と、構造的に一体化している「古門」がリノベーションされて、全体の延命を計ることを可能としたことは、「建物(構造)」の脱-構築化という観点からも有意義であったと言えるのです。それほど、まるで教皇十字のように両腕を突っ張って起立した光り輝くステンレス製の「門柱」は、自信に満ちた力強さで、崩壊の寸前で懸命に爪先立って生き永らえて来た、この古い門構え「全体」をしっかりと支えているのです。それはあたかも、崩壊する個人や社会に、「自我」を超えた「超自我」としての規範や規律や倫理の再構築が必要であることを象徴化しているかのようにも視えるのでした。その時のことでした。その金属性の「門柱」のあまりに唐突で奇想天外な佇まいの発する強力な「磁力」に惹きつけられたのか、その男「T」はヨロヨロと夢遊病者のような足取りで、このリノベーションされた「古門」を通り抜けて来たのです。そして彼は、今度は熱病者のように、「殿の湯」での狂ったような「蛍」の乱舞の様子を語り始めたのでした。彼の狂気の「言葉」は、私の脳裏の真っ黒なキャンバスに、光の点となり、やがてそれらの点はつながった線描となり、幻想的で神秘的な光の残像としての「抽象絵画」に発展していったのです。私は、この「狂気」の感覚もまた、「亡父の動物園」には無くてはならない「記憶」であることを思い付いたのです。すると、32の「個室」の内の16の無点灯の「個室」において、蛍たちの物悲しくも弱く消え入りそうな「光」が、いっせいに灯ったような気がしたのでした。
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by artbears | 2008-07-29 18:37 | 芸術


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