夢博士の独白



<   2008年 06月 ( 1 )   > この月の画像一覧


小さなアパートでの私事の不安、そして海図なき暗黒の外海へと流出した現代の不安。

灰色の靴下は「伝説」であり、青色の靴下は「不安」であったと覚えていたのです。なのに、赤色の靴下のLPジャケットのタイトルがどうしても思い出せなかったのです。しかし、その鋼のように強靭で瞬発力のあるサウンドには、地球を覆い尽くした観のある、この現代の暗く憂鬱な「不安」が、社会を変えて行く力となることに絶望しながらも、再び集団のなかで結束し、トランスフォームする方向性が示唆されていたと記憶するのです。何れにしろ、それは、あなたがこの小さなアパートのドアを開けて、私の心の鍵穴に鍵を差し込もうとした時と前後する出来事だったのです。そして、あなたの後姿と入れ違いに、射し込んで来た太陽の光の弱々しさは、それが、夜が明けようとする未明の出来事であったことを告げていたのです。ベッドの脚に「グルグル」と巻き付いたように視えたはずの白い蛇とその鎌首が、枯れた蔦とその残された一枚の葉のように、古色を帯びたものに変質していたのに気付いたのも、あなたが閉めたドアの音が、静寂よりも、むしろ無音の暗闇が始まることを告げていたからなのです。私が沈黙と一緒に呑み込んだ「言葉」は、この白い蛇への「恐怖」の感情に由来するものであったはずです。しかし、その流産した過去の「言葉」は、現在の私のいかなる感情とも合致することができないためか、私の身体からすり抜けるようにして消えて行ったのでした。私は、この二階建てのアパートの一室で、ベッドの淵から両足を「ぶらぶら」と垂らしながら、思わず大きな溜息を吐いていたのです。足先に冷たい感触を覚えたのは、小さな溜息も途絶えがちになってからのことでした。海水は、一階のアパートを水で満たし、私のベッドを床から持ち上げる力となって、急速に水位を増していたのです。やがてベッドは「クルクル」と回転させられながら、アパートのカーテンと窓を突き破って、外界へと流出することを強いられたのです。破られたカーテンには、青空に白い雲が「ふわふわ」と浮かび、メルヘンチックな西欧のお城も雲間に浮かび、それらが無限に繰返されていたのでした。壊された窓には、鋭利なガラスの破片が窓枠の至るところに付着し、ベッドが室内に戻されることは、強く拒否されていたのでした。一瞬にして、私が存在する空間が巨大化したことは確かです。外海はと言うと、想像していたよりも穏やかな水面が水平方向に拡がっていましたが、垂直方向への物理的な距離が果して存在するのであろうか、という底なしの恐怖感が襲って来たのです。邪悪な暗黒の世界が、この無防備極まりない私のベッドの真下に拡がっているという予感がしたのです。それは、あらゆる未来の不確実性に対して、孤独な「個」として、自分だけの力で立ち向かわなければならないという、これからの社会の構造に対する「不安」でもあったのです。そして、この漠然とした「不安」は、具体的な形でリアルに視覚化されて現れて来たのでした。水平線の彼方に、あの残虐極まりない鮫の背びれが見えたならという「仮説」が、「不安」となって増殖を開始したのです。一方で、あの光景は、映画会社が観客の恐怖心を煽るための演出的なテクニックであるという、冷静で合理的な判断をする自分も意識できたのです。また、鮫が背びれを見せて泳いでいるのならば、水深は心配することがない深さであり、もしかしたら楽園である島の浅瀬も近いのではないかという、陽気で楽観的な観測をする自分も意識できたのです。現代の「不安」は、私「個人」のなかにおいてすら、集中性を欠いたものとなり、断片化して、他の要素と結合して姿を変えて行くのです。そうこうしている私が、海水にふやけた両足首に目をやると、再度、私を驚かせる光景が目に飛び込んで来たのです。暗黒の外海を一人で漂う私のベッドの周辺には、なんと無数の鮫たちが、不気味な群れを形成しながら、右回りの眩暈のような泳ぎを魅せていたのです。それは、永遠に満たされることのない彼らの食欲を表現した幻惑の渦のようにも観えたのでした。あの小さなアパートで覚えたプライベートな「不安」は、このグローバルに肥大化する現代の「不安」と合流しながらも、再びプライベートな「不安」としての淀みに浮かぶ「うたかた」とならざるを得ないのでしょうか。あの赤い靴下のなかには、私事として増殖して行く現代の「不安」の渦から、自力で脱出を試みる「個」を讃える強力なサウンドが響いていたと想えてならないのです。
d0078609_15364286.jpg

[PR]
by artbears | 2008-06-26 12:05 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
カテゴリ
以前の記事
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
検索
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧