夢博士の独白



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朽ち果てたかつての豪農の屋敷跡、監視人としての烏、染色体異常の白猫とサントーム

このさまざまな無国籍の家々が立ち並ぶ新興住宅地のなかに在って、もはや誰の日常性にも違和感なく溶け込んだ感のある、かつての豪農の屋敷と想われる建物に案内してくれたのは、今となっては誰であったのかを思い出せないのです。その姿は、あの班猫のように、見失うと少し先に現れて、決して後ろに現れることがなく、不可思議な世界へと導いてくれる先導役のように視えたという記憶だけが残っているのです。藁葺き屋根に後からトタンを被せたと思われる、この朽ち果てた「屋敷」の門を潜り抜けると、木枠の無いキャンバスの布地が、地面の上に無造作に敷かれているという光景に出くわしたのです。そこに描かれた「絵」は、かつてこの屋敷が栄華を極めていた頃、いかにこの「庭」が風情あるものであったかを窺い知ることができるものでした。その「絵」のなかには、真っ赤なサクランボがたわわに実った桜の木があり、その傍らには、瀟洒な黒檀の食卓と二脚の長椅子が置かれていました。そして、蛇をくわえた「三毛猫」は、第一関節から切断された右の後足をクルクルと虚空を掻くように回しながら、今にも食卓から長椅子に飛び降りようとしていたのです。手前の空間には、力強く繁茂する一株の茅が描かれ、それとは対照的な筆使いで、おそらく小さな一日花を毎日咲かせることであろう、可憐で慎ましやかな、そして無名性に徹した白い花が描かれていたのです。屋敷の四隅の「塀」の角の内側には、四本の高野槇の大木が茂り、それぞれの大木には、この屋敷内での出来事を全て把握して来たと自負している「四羽の烏」が棲んでいました。烏たちの眼は残酷なまでに冷徹で鋭く、まるでサーチライトのように、庭と屋敷の隅々までに「監視の眼」を光らせていたのです。すると、一羽の烏が声高に、「私は視た、あの猫は電車に足首をはねられようとも、決して獲物の蛇を放さなかった」と証言したのです。今度はもう一羽の烏が、「然り、だからこそ過去の絵として描かれているのではないか、他に何を望むのか」と、何度も何度も繰返されてきた会話にうんざりしたように語気を強めたのでした。この屋敷内という「小さな世界」とそのなかでの出来事が、急速にグローバル化しながら、そのボーダーという「塀」を片っ端から曖昧にしている「外界」との関係性において、最小限の経済単位としての自立の道も閉ざされていることは、烏たちには歴然とした事実として指摘されていたのです。そして、絵のなかに描かれている三毛猫が「雄」である可能性は皆無に等しいものであること、そしてこの敷地内にたむろする7匹の猫たちの被毛情報は全て「白」であるという基本的な「情報」も、烏たちからは既に報告されていることでした。つまり、庭のなかの7匹の猫たちは優性遺伝子である「白毛」のX染色体を持っていること、絵のなかの彼らの母親である三毛猫の「白斑」はX染色体の不活性化からきていること、頭のなかの彼女の父親はX染色体上にヘテロの遺伝子を持っている白毛の「個体」であるという情報を得ることができていたのです。そしてそのことは同時に、この反グローバリズムに徹した「社会」は、遺伝情報的にも自閉した集団としての運命を辿ることが危惧されているのでした。この自閉した「社会」の自開の道としては、遺伝的にも魅力的な情報を保有している「個体」が、この崩壊寸前の薄汚れた「塀」を乗り越えて、わざわざ訪れて来るという他力本願的な「奇跡」を待つことだけなのでしょうか。「否、この貧しき屋敷そのものになることだ」と、哲学者然とした三羽目の烏が言い放ちました。その断言的な口調の「言葉」が、この過去の「富」の再配分に汲々とした「社会」に響き渡るや否や、7匹の遺伝的に同質の情報を共有した白い猫たちの間に一瞬の「動揺」の雰囲気が拡がりました。彼らは、過去のメモリーと現在のファンタジーを「消費」することはできても、「富」そのものが消失して行く未来のリアリティーを「想像」することができなかったからなのです。その時のことでした。灰色の羽毛がまだ完全には生え変わっていない、四羽目の若くて醜い烏「サントーム」が飛行訓練を決意したのです。7匹の白い猫たちの間に一瞬の「期待」の雰囲気が拡がりました。なぜならば、「サントーム」がこの「塀」の内側に転落する「確率」は、彼が第一回目の飛行訓練で大空に羽ばたくことに成功する「確率」よりも遥かに高く、仮にこの猫たちを守っている「塀」の外側に転落したとしても、腹を空かせた「野犬」たちが見逃してはくれないことを知っていたからなのです。
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by artbears | 2008-05-25 18:24 | 社会


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