夢博士の独白



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雪原に刻印された人体のレリーフ、氷の宮殿に射し込む月の光、狂人と実体化した狂気

このオーロラの色彩の流動する「河」を想わせる幻想的で圧倒的な「美」を上空に仰ぎ見ながら、私は氷結した湖面から次々に切り出される直方体の「氷塊」に見入っていたのです。なぜならば、それらの分厚い「氷塊」の内部には、この美しいオーロラのさまざまな色の「粒子」が閉じ込められているように視えたからでした。そして、この氷のブロックが積み上げられた構造物こそが、あの噂に聞く氷で出来た「宮殿」に違いないと想ったのです。そして驚くことに、その「宮殿」の住所こそが、不在のために再配達が通知された場所であり、「月の石」が届けられると予告された場所だったのです。兎にも角にも、満月の夜に離陸するとだけが記載された飛行チケットを手渡されたものですから、時間的余裕はあまりないと判断した私は、レンタルした10頭引きの犬ゾリの犬たちに叱咤激励する「鞭」を打ったのです。ところが、犬たちはいっせいにこちらを振り返り、その獰猛な「犬歯」を剥き出しにして、私への恫喝の集団行為に出たのです。私は微塵の動揺も見せまいとして、断固たる強い意志を持って、二発目の「鞭」を空高く、オーロラの「河」を真二つに断ち切らんがばかりの勢いで打ちました。幸いにも、犬たちが懸命に走ることを暗黙のうちに約束したことは、彼らの厳ついた肩が、服従の意志を表した力の抜けた撫で肩へと変化したことで、見て取ることができたのです。そして、リーダーの「ピエタ」の一曳きで、このダンデムタイプと呼ばれる二列縦隊の犬ゾリは再び勢いよく走り出すこととなったのです。白だけに統一された雪原とそれを麓とした雪山とが、その背景にある鉛色の曇天との境界線を曖昧にしているのは、この犬ゾリのスピードがいかに速いかを物語っていました。ところがしばらくして、統制のとれたリズムを刻んでいた犬たちの力強い走りに乱れが生じてきたのです。その原因は、一人の「狂人」が雪原を凝視し、意を決して自らの身体を雪面に投げ出している光景に遭遇することになったからでした。「狂人」は雪面に何度も自らを投身することにより、あたかも自らの狂気を純白の雪面に転写しようとしているかに見えたのです。この「狂気」を刻印するという行為は、現在のデジタル技術と同様に、基本的にはコンテンツが劣化することなく、繰返して複製されていくはずなのです。本能に秀でた犬たちが、そのことに慄き恐怖心を抱いたことは、無理からぬことのようにも思われました。白だけの世界に、僅かな陰影による人体の「白い影」が、無数に繰り返して残されようとしていたのです。恐れ慄いた私は、一刻も早くこの「悪夢」から抜け出すことを願い、救いの眼差しを遠方に投げ掛けたのです。氷の「宮殿」の尖塔が見え始めたのは、その直後のことでした。と同時に、あの「狂人」がこの氷の「宮殿」の住人であるという最悪のシナリオが、私の脳裏を横切ったのです。しかし、時はすでに遅かったことが知らされました。「ピエタ」を先頭にした犬ゾリは、アーチ型をした氷の「宮殿」のゲートを滑り込むようにして通過して、イスラム教のモスクの内部を連想させる巨大な「空間」に入って停まったのです。そこには案の定、あの「河」から切り出された「氷塊」のブロックを円形に積み上げることによって出来上がった「聖堂」が待ち受けていました。偶像崇拝が厳格に禁止されているためか、この「空間」にはいかなる装飾も像も、そして祭壇さえも、見つけ出すことは出来ませんでした。そして見上げると、夜空を円形に切り取ったような「天窓」がポッカリと空いていて、その円の中心部に「満月」が刻々と移動している様子が観えるのです。「満月」と「狂人」、この不吉な組み合わせは、一刻も速くこの「空間」から逃れるべきであることを告げていたのです。その時のことでした。ドスンという音とともに、「月の石」が「天窓」から、まるで頂点に達した「満月」から放り投げられたかのように落下して来たのです。私は「狂気」の引力に引き寄せられるようにして、その「満月」からの落下物の側に立っていたのです。「月の石」は十文字に針金で縛られていて、上面には三枚の「荷札」が取り付けられていました。一枚目の「荷札」には、「月の石 1969年7月20日」という文字が記されていました。二枚目の「荷札」には、確かに受取人の私の名前とこの「宮殿」の住所が記されていました。三枚目の「荷札」を見ようとした私は、あの雪面に写し撮られた「狂気」がレリーフとして実体化した、そして恐らくは送り主であろう「狂人」の無数のコピーたちに取り囲まれていることに気付いたのです。
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by artbears | 2008-01-28 19:12 | 芸術


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