夢博士の独白



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鎧兜に身を固めた青騎士又は自動機械、黒ピアノの内側に築かれた秩序又は精神の城壁

自動機械のようにどことなくぎこちなくもないのですが、それでいて正確無比に与えられた仕事を効率的にこなしているかのような素振りを見せる「官僚」のようにも見えるのです。それが、あの銀色に輝く鎧兜を身に着けた「青騎士」のいつもの登場の姿だったのです。「青騎士」は決まって、私のピアノの漆で塗られた黒光りする側板を「鏡面」として、その内奥にある異次元の世界から、フウッとまるで亡霊のような軽やかさで現れて来るのです。それは、一種の「鏡像」のような存在なのかもしれません。つまり、私は鏡面に映る「青騎士」である鏡像を視ることを通して、私自身を視ていたと言えるのです。ピアノは建物の東側に位置している居間に置かれていました。そのために、窓を背にしてピアノの前に座ると、私の背後からは慈しみに満ちた柔らかな朝の「光線」が射し込んで来るのです。窓から見える庭の「景色」は手入れの行き届いたものではありますが、それはあくまでも表面的なものであり、自然の原理が弱肉強食であることを思い起すと、いつ何時「悪魔」の手が忍び寄るかは判らないといった気配が漂っていました。こうした不穏な空気を払拭したいという願いもあった私の選んだ「音楽」は、やはりバッハだったのです。それは、バッハの音楽には、心安らぐ天上の神聖な空間への想いとそれを讃える響きに満ち溢れているからなのです。それは、私の「精神」を浄化して、高みの「世界」への予感を確かなものにしてくれるからなのです。ところが、いざ曲を弾こうとした私の目に飛び込んで来たものは、黒い鍵盤に映る40の小さな「青騎士」の姿だったのです。「青騎士」たちは躍り出るようにして黒い鍵盤の小箱から抜け出して、88の鍵盤の上を飛び跳ねるのでした。彼らの運動から生まれる音楽は一聴して「無調」のように聴こえるのですが、その音列と時間軸には厳格な「理論」に支えられた構築性と規則性が存在しているように思われたのです。やはり、彼らは「自動機械」であり、あの自然の中で無数に飛び交う没個性化した「ミツバチ」たちと同じなのだと感じたのです。なぜならば、ミツバチの羽ばたく音を耳元で聴くときの、あのいらいらした「感情」が無意識の奥底から嘔吐のように湧き上がって来たからなのです。私は、この「青騎士」自体が私の鏡像であり、彼らの奏でる「音楽」が自然界に巧妙に組み込まれたミツバチたちの労働の調べと同質のものであるならば、私自体が「自動機械」であるとの演繹的な思考に囚われてしまったのです。そうした私が、私の分身でもある「青騎士」たちの追跡から逃れ、私自身のもう一つの存在の根拠でもある、この黒いエレガントな「ピアノ」に救いの場所を求めたのも無理もないことだったのです。私は、斜めに傾いたピアノの響板に沿って、深くピアノの内部に潜り込み、そこに立て篭もり、内側から強固な「防御壁」を築くことを思い付いたのです。ピアノの内部の「構造」は、想像していた以上に複雑なものでした。無数の鋼鉄製の「弦」が張り巡らされており、低音を生み出す太く強い弦には、それに相応しい大型の「ハンマー」が備わっているのです。そして、ハンマーと弦とボディのバランスが絶妙に設計されている人工的な仕組みこそが、ピアノの実態であることが理解できたのです。私はこの「場所」こそが、この人工的な「秩序」の存在する場所こそが、多くの自動機械の連鎖からなる自然の暴力から身を守ることのできる唯一の「場所」であると感じたのです。その時のことでした。高音部の弦がブルンと唸るような音を響かせて振動したのです。いよいよあの「青騎士」たちがピアノの内部に侵入し、接近していることが告げられているのです。私は焦りました。なぜならば、このピアノの内部には、私の思惑に反して、防御壁となるいかなる物質的な材料も無かったからなのです。しかし、その時のことでした。最初のハンマーが下されたのです。誰かが、恐らくもう一人の私がピアノを弾き始めたに違いありません。ピアノは躯体全体を響かせて、最初の「音(言葉)」を発したのです。そして、それらの「音」の連鎖から生まれて来る音楽の、なんと創造性に満ちたことか、私の無意識の奥底から今度は歓喜の「感情」が溢れて来たのです。それとともに、「青騎士」たちの追跡の「足音」が止まり、柔らかな朝の「光線」が射し込んで来たのです。その音楽は「神」と共にありました。そしてこの世の中に、真理や純粋さを希求する余地が残されていることを知らしめる自信に満ちた調べが続いたのです。精神の城壁は築かれたのでした。
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by artbears | 2007-12-28 20:17 | 音楽


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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