夢博士の独白



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青林檎と赤林檎が在った、それらの色が変化しなければ橋は渡れないと柳の木は諭した

京都の洛中洛外を描いたあの「屏風」の中にもあったと言われているこの「太鼓橋」が、未だに存在していること自体が、この世の摩訶不思議な部分であると言う説明が、耳鳴りのようにリピートされて、私のヘッドフォーンから聴こえて来ていたのです。そして、その「声」は、他ならぬ私自身のものであることに気付くのには、百を三つ数える「時間」が必要でした。橋の欄干の手前には、左右対称に柳の木が植えられていて、それらを繋ぎ留めるものとして上方にはハンモックが揺れていて、下方の地面には横断歩道が引かれていたのです。左には若かりし頃の「青林檎」のあなたが立っていて、右には今や妙齢となった「赤林檎」のあなたが立っていました。「赤林檎」となったあなたは、しきりに赤いドロップを私の口に押し込めようとするのですが、私の紅くて小さい雲雀の舌は、その先端が尖っていることもあり、上手く受入れることができずに難儀したものでした。しかし、その赤いドロップの とろけるような甘美な味が口の中に拡がるには、十を一つも数える「時間」があれば充分だったのです。そして、その甘い夢のような「世界」が拡大することと歩調を合わせるようにして、青林檎のあなたはしだいに熟した「赤林檎」へと変化していったのです。しかし、それは「視点」を変えて観たならば、赤林檎のあなたはしだいに熟した「青林檎」へと変化したとも言えたのです。左右の「林檎」が、まるで赤信号のように点灯した時こそが、この橋を渡れと言う合図であったと勝手に解釈したのは、いつもながらに私の「直感」の成せる「早業」だったのでしょう。そう、私は常に根拠無き楽観主義者を生きて来たのです。「太鼓橋」を渡り終わった地点は、小雪の舞い降りる寒い「場所」であったようですが、幾重にも折り曲げられた「屏風」の左に拡がる「世界」には、秋があり、夏があり、そしてその先には、私の大好きな季節である「春の気配」を感じることができたのです。失われた「時間」を再び遡ることができるとしたら、それはどんなに素晴らしいことでしょうか。私の頭の中には、桜爛漫となったあの「京都」の山々の美しさが、まるでピンク色の「風船」が膨らむようにして、目鼻から弾け出るエクスタシーとなって溢れ出したのです。そして、その生命の息吹に満ちた「春の世界」には、程よい弾力の木製のタイルが敷かれた「通路」があり、陽光が射し込むように開かれた「窓」を背にした机の上には、未だに緑色のままの二つの「林檎」が置かれているに違いなかったのです。私はかつて熱い想いで凝視した、あの「視線」を遠い記憶から呼び戻し、この二つの「林檎」と再び結び合わせることにより、この十二面の「屏風」にびっしりと描かれたミニアチュールな「世界」を旅することを思い立ったのです。一歩足を踏み出すと、固定していた全ての「情景」が、ザワザワとした生活感溢れる雑踏の「雑音」とともに生き生きとしたものとなって動き出し、人々の息遣いや汗などの「臭気」までもが空間を満たしていくのです。その雰囲気は、現代の新宿辺りの都市を歩く時に感じる、あの喧騒の中の孤独感とは全く異質なものであり、むしろ、イスタンブールやモロッコなどのバザールで感じることのできる、生きることの原初的な喜びや逞しさのようなものに近いように思われたのです。当然、私の歩みは快活に進められることになり、厳寒の冬の雪景色さえもが、次に訪れる秋の紅葉の美しさを引立たせるための「下絵」となり、燃えるような夏の暑ささえもが、次に待っている春の初々しさを際立たせる「前奏曲」となったのです。そして、この六曲一双からなる「屏風」は、次々に開かれることによって、年月に埋もれていた「過去」の新たな発見と解釈をもたらしてくれたのです。私は、かくの如く「時空」を逆行し、桜吹雪が舞う「校庭」を無我夢中で横切り、小鳥の飛び交う「階段」を二段飛ばしで一心不乱で駆け上がり、あの想い出の「通路」への曲がり角へと息を切らして辿り着いたのです。私の右手には、失われた記録としての白紙の「時間」が握り締められていました。私の左手には、失われた記憶としての白紙の「手紙」が握り締められていたのです。私は、「心」に平静さを取り戻す目的もあって、再び十を一つ数えることにしました。「目」は静かに閉じられ、「心」の窓を開くことにしたのです。そして、その「窓」からは、ひっそりと身を潜めるように生き永らえて来た、あの緑色の林檎が、真っ赤に熟した「赤林檎」へと成長し、そのはっきりとした「輪郭」を浮かび上がらせて視えたことは、言うまでもなかったのです。
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by artbears | 2007-11-30 20:18 | 自白


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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