夢博士の独白



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波打ち際に打ち上げられた帆船と船底に付着した無数の貝殻、真珠のような眼球の秘密

ホテルのフロントへの道がこんなに複雑で労苦を伴うものであろうとは、旅行ガイドのどのページにも載ってはいなかったはずなのです。そのこともあってか、「スナメリ」と呼ばれるイルカのような「すべすべ」とした肌を持つこの愛くるしい生き物は、古い木造の旅館の板張りでできた水路のような「廊下」を、二頭が肌を擦り合わせながら流れるような軽快さでもって泳ぎ、私達の道案内をかって出てくれたのです。フロントがもうすぐであることは、「スナメリ」のほとんど閉じかかった目蓋の奥の「眼球」のやさしい光で判りました。「哺乳類」として分類されることを頭のどこかで意識していた私達は、四つん這いの姿勢を採ることにして、一歩一々「ぬるぬる」とした「水路」の板底の感触に戸惑いながらも、少しずつフロントへと近づいて行けると考えていたのです。ところが、異変に気付いたのは、「水流」に逆らって立てられた二本の杭のようにも見えた我が「両腕」を見下ろした時のことでした。左腕の肘の上あたりから、小さな無数の「時計」がまるで増殖するフジツボのように、左肩のあたりまで拡がろうとしていたのです。私達の驚きには筆舌に尽くし難いものがありました。それは、ある種の「退化」することへの恐怖の感覚に襲われたからなのです。私は、とっさに、「甲殻類」のそれのように硬化しつつある無数の時計でできた「皮膚」を、条件反射的に不快なものと判断して、一刻も速く剥ぎ取ることを決意したのです。「バリバリ」という「音」とともに、剥ぎ取られたもう一枚の「皮膚」の下から現れて来たものは、痛々しくも真っ黒に炭化した、あらゆる「時間」を吸い込むブラックホールのような「暗黒の世界」だったのです。私達は、その「世界」の不思議な「吸引力」に引き込まれないようにしました。なぜならば、そこは、過去だけでなく未来もない「無時間の世界」のように思われたからです。後を振向くと、フロントは一瞬にして、車窓からの風景のように遥か彼方に飛び去って行きました。それは、放たれた「矢」のようなスピードだったのです。私達の「失われた30年」への惜別の儀式は、このようにして執り行なわれたのです。そして、私達は「時間」という大きな「波」に追い立てられるようにして、この吹き溜まりのような「海岸」に打ち上げられたのです。その「海岸」で、私達の目を引き付けたのは、波打ち際に少し傾いて横たわる「船」とその真っ白なキャンバスのような「帆」の美しさでした。船底には、びっしりと夥しい数の「貝殻」が付着していて、その一つひとつの貝殻の「割目」からは、透明の涙をいっぱいに湛えた真珠のような「眼球」が覗いていたのです。それは、あの「時計」の非情に時を刻む機械のような「目」ではなく、人生のさまざまな場面において、言葉にできない「想い」を有機的な「涙」に置き換えて語って来た、そんな静かに何かを訴えるような「目」だったのです。その無数の「眼球」に見詰められた私達は、後ずさりをして、「バリバリ」という足元の「音」に驚きました。無数の牡蠣の「脱殻」からでき上がった「護岸」の存在に気付いたのです。その一つひとつの牡蠣の「脱殻」が、私達には無為に過ごした「時の亡骸」のようにも視えたのです。しばらくの間、内省的で悲しい時が過ぎていきました。「護岸」からは、海の豊富な天然資源を暗示するかのような、エメラルド色をした海の深さが観て取れ、ゆったりと打ち寄せる波の穏やかさには、ある種の安定した「秩序」の存在を感じ取ることができました。また、この小さな入り江を取り囲むようにして形成されている馬蹄形をした「半島」の至るところには、海の抽象的でどこか頼りない「色彩」とは異質の、木々の繁茂する力強さと物質的な確かさに支えられた現実界の「色彩」を感じ取ることができたのです。そして「半島」の遥か先の、さらに水平線の先の象徴界の「世界」においては、今まさに燃え滾った「太陽」が、その姿を徐々に視界から消そうとしていたのです。真っ赤な「太陽」は、刻一刻と暗がりの領域を拡げつつある「夜空」に、真円の穴を焼き切ってしまうかのような勢いと強度を感じさせるものでした。そして、その真っ赤な「真円」が水平線との接点までに降下したならば、この「世界」は沸騰し、あらゆるものは気化してしまうのではないかという「妄想」が、私の中で肥大化したのです。しかし、この偏執狂的に増大する私の「不安」を和らげるかのように、あの二頭の「スナメリ」は、その知性の存在を示す隆起した「前頭部」を海面から時々出して、誘惑するかのような滑らかでセクシーな泳ぎを披露してくれたのです。
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by artbears | 2007-09-27 19:28 | 夢白


ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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