夢博士の独白



固体となった記憶の夢、不在となった現在の私、黒いスフィンクスの死を告げる雨と影

 しばらくして「瞳孔」が開いてきたのだろうか、私の叫び声が「意識」の「扉」を開いたのだろうか、ようやく明るさに反応しようとする「感覚」が蘇って来たのです。明るく内省的な私が、暗くて内省的な「私」と入れ替わる。「両者」は離れていく。忘却のシステムが作動を開始したのです。それに連れて、あの「声」は引潮のようにして、遠い哀愁の「彼岸」から聞えてくるようになる。「死」は静かで小さな「声」となる。
 微睡みのなかでは、「夢」の続きが用意されて「事」が起きる。その「事」のなかでは、おぼろげな「文脈」とおぼつかない「人脈」が絡み合って「時」が過ぎる。その「時」のなかでは、厳かで堂々とした「黒鷲」の大きく拡げた「両翼」のようにして、曖昧で秘密めいた「記憶」が積層した太古の「地層」のようにして、私の「夢」が映し出されていたのです。私の「影」が黒い炎のように動いている。私の「身体」から離れないように燃えている。「私」の不在は明らかでした。
 それは、ゴシック様式の「大聖堂」のステンドグラスの「壁」のようにも見えました。下方から上方に向かって「視線」は彷徨いながらも「上昇」するように構成されていたのです。「過去」から「現在」へと繋がる「情景」が一つひとつの「枠組」のなかに嵌め込まれていて、下方の「枠組」の固定化と上方の「枠組」の流動化が進行していたのです。最上層を見上げると、私の「影」が赤い炎のように燃えている。私の「身体」から離れるように動いている。「現在」の不在は明らかでした。
 「記憶」のステンドグラスが起ち現われて来たのです。遠い「過去」は硬い「石垣」のように固まっている。そこでは「時間」は停止している。少なくとも「瞬間」のなかに断片化している。それらの「記憶」が固体化されることによって、「時間」を超越したイメージが発ち現れていたのです。
 しばらくして「瞳孔」が閉じてきたのだろうか、私の呻き声が「意識」の「扉」を閉じたのだろうか、再び目の奥の「暗闇」に順応しようとする「感覚」が戻って来たのです。暗くて何処までも続く「廊下」が視えて来ました。「死」が再び、あの「声」となって聞こえて来たのです。「次、次の死体」と聞こえて来たのです。
 慎み深く四枚の「扉」が、しかも同時に開くとは想ってもいない「事」でした。「廊下」の暗がりのなかで、四人の「影」が、一瞬のゲームのように素早く、白い炎のように輝き始めたのです。それは、白塗りの「道化師」の弱くて自虐的な「嘲笑」と強くて絶望的な「虚勢」のようにも見えました。一人目が、デヴィッドの「死」であったことは間違いなかったのです。
 二番目の「部屋」に入ると、人気の無い「舞台」のスポットライトはすでに消えていて、黒いドレスを着た一人の「女」が佇んでいたのです。その「姿」は、まるで黒いスフィンクスのように不思議な雰囲気に満ちていました。「舞台」に「雨」が静かに降っている。それは、彼女の吐く「呼吸」のように冷たく細かく柔らかい。
 ナントに「雨」が降る。深い「夢」の寒い「暗闇」に降っている。すると突然、スポットライトが燈されて、四人の「男」が同時に立ち上がったのです。寒々とした「舞台」には、主人を失った一つの「椅子」が遺されていたのです。「黒鷲」は飛ぶ鳥となり、「黒馬」は立ち馬となる。それは、想ってもいなかった「時」でした。
 見知らぬ四人の「影」が次々と「私」を通り抜けていく。彼等は何も問わない、何も語らない。ただ彼等を視ただけで、彼女がすでに逝ってしまったことが判ったのです。二人目が、バルバラの「死」であったことは間違いなかったのです。
 真っ赤な薔薇の「花」が、真っ青な「海」へと続く「石畳」を真っ赤に染めている。私の「瞳孔」は完全に開いて、深紅に染まった「眼球」が忙しく動いている。目の奥に真紅の薔薇の「華」が視える。私の「記憶」のなかで咲いている。散ることを忘れて咲いている。ナントに「雨」が降っている。
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by artbears | 2016-05-30 20:36 | 連白
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ソフトマシーン・やわらかいきかいのひとりごとです
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