それは、太陽の放った「光線」に違いなかったのです。熱く「水中」を貫いている。硬く透き通って、強く自信に満ちている。その周辺では「光」の粒子が渦巻いていて、それは、脱ぎ捨てられた淡い金色のドレスが舞っているように視えたのです。「水」が沸騰して、「光」が燦爛している。あの「月光」のようなどっち付かずの素振りは見せずに、それは、一直線に「水底」を目指していたのです。
ときおり「風」が吹くようにして、「小魚」の群れがどこからか現れて、何かの「出現」に怯えるようにして、深淵なる「暗闇」に吸い込まれていく。死の淵で開かれた大蛇の「口」、その暗黒の「世界」のような「穴」に呑み込まれていく。
そのとき一瞬、あの「犯人」の薄い「唇」が震えて見えたのです。灼熱の砂漠の「太陽」が眩しい。「銃口」が無差別に向けられている。兵士と情報が次々と「国境」を突破している。焦点の定まらないシャークの「目」が左右に振れて、卑猥で官能的な「頭部」が迫ってくる。とにかく、離れなければいけない。この黒い巨大な「穴」に呑み込まれてはいけない。
グローバルに拡大した「世界」が再び縮小に転じているのです。まるでバクテリアの増殖と死滅の「過程」が繰り返されているようだ。主権国家の枠組への「認識」が曖昧になっている。否、枠組自体の「存在」が否定されようとしている。パンデミックの「恐怖」、ポストモダンの「矛盾」とプレモダンの「蛮行」が同時に多発している。
無意識の「目」が薄っすらと開かれました。すると、太陽の「光線」がスポットライトとなって「水底」を照らしていたのです。目の奥で何かが現れようとしている。私は「心底」から、それが、美しく清らかなものであって欲しいと願ったのです。この絶望の「未来」を目前にして、この暗黒の「世界」を背後にして、私は自らの「視線」の欲望を抑えることができなかったのです。
それは想像上の「産物」ではなく、抑制と禁忌のヴェールから垣間見られる「光景」であるべきでした。豊穣なる「海」が、私を抱擁する。豊潤なる「海」が、私を溶解する。気が付くと、「純粋」なるものが、私の「視線」を支配していたのです。エメラルド色の翡翠で造られた「玉座」が現れる。その上に置かれた美しい純白の「貝殻」が現れる。至福の「光景」が、私の「脳内」に浮かび上がったのです。
波打ち際の「白浜」、打ち寄せる「白波」の「音」が心地良い。それは地球の「心臓」、その「鼓動」が秩序と調和のリズムを打っている。どうやら、私の「意識」は、この巨大な「巻貝」の洞窟状の「空間」に移動したようです。艶やかに光り輝く「内壁」にそっと触れる。そのピンク色の肉惑的な美しき「器」に魅了される。私の「耳」も鋭敏なる音響の「器」となる。そして「巻貝」となって「音」を求める。遥か遠くから聞こえてくる高貴で優美で軽やかな「音色」が、私の「脳内」で響き渡ったのです。
それは、グレンの弾くバッハに違いなかったのです。二人の異なった「精神」が時空を超えて出会う。古典の「精神」が現代の「精神」によって解体され解釈される。グレンの呻吟する「声」が聴こえる。悲しく愛おしく美しい「旋律」は、その「背後」にある「苦悩」を浮き彫りにしていく。神への「愛」が、「現在」に蘇ろうとする「苦悩」に置き換わる。その純粋で永遠なる「苦悩」が、繰り返して「再現」されようとしていたのです。「神」が聴こえる。「未来」が見えたのです。
ゆっくりと「時間」が始まり、そして速まりました。そのテンポに合わせて、この巨大な「巻貝」のような「空間」が右回りに回転を始めたのです。「空間」が捻れる。「肉体」が軋む。ある種の遠心力に促されて、「精神」が「肉体」から遊離する。
黒いレコード盤が、目の奥で右回りに回転している。「眩暈」のように回転している。黒く刻まれた「溝」が、私の「意識」を深く掘り下げていく。真っ暗な「空間」が続いて、やがて螺旋状の「階段」が見えてくる。「老女」の灯す蝋燭の「炎」が見えてくる。私の「精神」は、「海面」を反対方向から見上げていたのです。向こう側の「世界」で、陽炎のように揺れる「扉」が視える。それは、私を強く「拒絶」するかのように視えたのです。